ある日突然鳴る電話。
電話口では、東京商工リサーチや帝国データバンクの調査員が「調査にお邪魔したい」と言っている。
調査を受けるべきか、断るべきか。そもそも拒否して問題はないのか。悪影響はないか。
心配な経営者の方もいることでしょう。
はじめまして。佐藤絵梨子と申します。
私は信用調査会社の(株)東京商工リサーチで約11年間調査員をしていました。
個人事業主から売上1兆円企業まで、延べ7,000社以上を調査した実績があります。
現在は『会社信用ドットコム』という専門事務所を設立し、大手企業との取引実現をサポートしています。
調査員時代、社長に取材のアポイントの連絡をして、「佐藤さん、それは拒否できるの?断るとどうなる?」と聞かれたことは数知れません。
さらに、現在わたしの事務所には、信用調査で間違った対応をしたばかりに、信用調査会社の評価が下がってしまったり、取引に悪影響が出てしまったりした経営者様がたくさんご相談に来られます。
その中でもとくに、『調査拒否』に関するご相談はとても多いです。
悩んでいる社長がこれだけいらっしゃる。ならば元調査員として、解決につながる情報を伝えられれば!と思い、この記事を書くことにしました。
まず最初に大切なことをお伝えします。
それは、元調査員の私は、「調査拒否をお勧めしない」ということ。
信用調査や取引審査の現場で、拒否すると起こるマイナスの影響を、この目でこれでもかというほど見てきたからです。
「なぜ拒否しない方がいいのか?」と思った方は、ぜひ最後までお読みください。
とても大切なことを、私の経験をもとに包み隠さずお伝えしています。
この記事を書いている私のプロフィール
佐藤絵梨子(さとうえりこ)
会社信用ドットコム代表・会社信用クリエイター
世界最大の企業情報を保有する (株)東京商工リサーチに入社後、個人から売上1兆円企業まで10年間で延べ7,000社以上を調査。商業登記簿から会社の信用度を見抜くほどになり、全国1,000人以上の調査員中、営業成績1位獲得の実績を誇る。2017年同社を退職。現在は大手企業との取引実現から銀行融資・補助金獲得まで支援するサービスを展開。小さな企業の救世主として期待されている。
*経済産業省認定 経営革新等支援機関(認定支援機関ID:107713006411)
<メディア掲載情報>
■SMBCグループの経営層向け会報誌『SMBCマネジメントプラス』
「危険な取引先・優良な取引先がわかる 決算数字と信用調査の活用法」
■日本実業出版社『企業実務』
「元調査員が教える!信用調査会社の上手な使い方」
「信用調査会社に会社を高く評価してもらうコツ」 など
※メディア情報一覧はこちら
信用調査を拒否した実例①:日用品・雑貨販売会社の木下社長

木下社長(仮名)は2年ほど前に会社信用ドットコムにご相談に来られました。
社長が経営する大阪府にある会社は、創業から4年とまだ業歴は浅いものの、社長がほぼお一人で年商2億円まで成長させた、今まさに勢いに乗る会社。日用品・雑貨などを扱う会社ですが、社長のアイデアでオリジナル商品を生み出すメーカーでもあり、そのうちの1つの商品が、全国的にバラエティショップを展開するとある大手有名企業の目に留まり、向こうから商談を持ちかけられたそうです。
これまでは地元大阪近郊のスーパーマーケットや個人店、インターネットでの販売を中心としていた木下社長は、喜びあふれ、もう大興奮で商談に臨んでいたそうです。
商談は順調に進み、「これなら契約は間違いない」と木下社長が感じ始めたところで、ふと先方の営業担当者がおっしゃいました。「この後、うちの審査部が調査会社を使って御社の調査をするんですが、それで審査部が問題ないと言えば取引できると思います。ちなみに、帝国データバンクには御社の登録がないようですが、今まで調査はちゃんと受けていますか?」
まさに青天のへきれき。木下社長にとってはもうなんのこっちゃという話です。
そこで私のところに、「調査とは何なのか、どうすればいいか教えてほしい」と言ってご相談に来られたのですが、もうその慌てっぷりと取引がなくなるかもしれない不安なご様子は、見ているこちらも可哀そうになってしまうほどでした。
ですが、これまで精魂尽くして積み上げてきたものが、その信用調査でなくなってしまう可能性があると思えば、その気持ちは同じ事業者である私もよくわかります。実は木下社長は、以前から帝国データバンクや東京商工リサーチから「調査にお邪魔したい」という連絡は受けていたそうです。しかしながら、信用調査会社や調査がよくわからず、すべて拒否していたのこと。
調査について説明し、お伝えした高評価を取れる対処法を実践していただいたところ、その取引は無事に進み、現在は西日本の店舗を中心に木下社長の製品が展開されています。
社長は、調査を拒否する恐ろしさや取引先が信用調査会社を通じて自社を調べている事実を知るとともに、「もし以前からしっかり調査に答えていれば、その時調べてくれた企業からも依頼があったのでは…?」と少し肩を落としておられました。
この木下社長のケースも決して珍しいケースではありません。むしろ取引審査の現場では日常的によく発生するケースです。
信用調査拒否で起こることの1つ目は、「商談が進んでいても取引がなくなる可能性が出てくる」でした。大手企業や上場企業の取引を決める最終決定賢者は「審査部」です。そして、その審査部が参考にする大切な情報の1つが信用調査会社の情報。こちらもぜひ心に留め置いてください。
信用調査を拒否した実例②:建設資材販売・工事会社の小泉社長

拒否の実例の2つ目は、私がこの会社信用ドットコムを立ち上げてから、1位2位を争うくらいよくいただくご相談です。
名古屋市に本社を置くその企業の小泉社長(仮名)は、私が会社信用ドットコムでこの調査対策のご支援を本格的に始めた4年前にご相談に来られました。私にとっては、信用調査関連での初めてのお客様でとても思い入れのある方です。
小泉社長の会社は、ご家族中心に役員が構成され、建設資材の販売及び工事業を行っていました。コロナ感染拡大の影響を受けながらも、社長の誠実な人柄と徹底した経営管理のもとで、取引先と売上利益を守っておられました。私もお話を伺い、過去から決算書も拝見しましたが、その堅実ぶりに感心したほどです。私が大手企業や上場企業の審査部の人なら、ぜひとも取引をしたい、そして離したくはないと思えるような会社でした。
しかしながら、小泉社長の会社は、大手企業やその系列企業と取引をする時に、多くの会社から「代理店を挟んで取引をしましょう」と言われていたのです。
業績も経営状況も悪くはない。会社も少しずつ大きくしてきて小規模でもない。取引でトラブルが起きたこともない。一体何が悪いのかと。
そこでふと、むかし先方の営業担当者に「直接取引してほしい」と打診した時に、相手が「審査が通らない」と言っていたことを思い出したそうです。ネットで検索するうちに信用調査の存在に辿りつき、愕然としたそうです。社長は毎年ことあるごとにかかってくる「信用調査にお邪魔したい」という取材の連絡をすべて拒否していました。
社長の取引先であれば間違いなく信用調査はしている。しかも、初回の取引だけでなく、毎年の状況確認で継続的な調査もしているでしょう。さらには、小泉社長が身を置く建設業界は、事業者数が多いことや、外部環境の影響を受けやすいので、業績悪化や倒産のリスクを抱える企業が多い。
つまり、大手のような取引先チェックをしっかりする会社では、「注意して動向を確認すべき業種」です。そのような中での調査拒否でしたので、取引先も取引を慎重に判断し、直接取引ではなく、代理店経由の取引を選択したのでしょう。
小泉社長の場合、代理店から取引手数料を5%取られていました。さらに、金融機関からも直接の取引にならないのか?という指摘もあったそうです。何より、自分は間違いなくその大手企業と取引をしているのに、支払がその会社ではなく代理店だという事実が、小泉社長の気持ちを悲しくさせていたのが、私も見ていて辛かったです。
大手企業や上場企業などが直接取引せず、代理店経由にするのは、十中八九、取引相手に不安を感じているからです。しかも、長年取引をしているのに、営業担当者との関係も良好なのに、取引でトラブルもないのに代理店経由になっているのなら、審査部が信用調査を通じて取引を調整することはよくあります。
しかも、1度代理店経由になってしまうと、後から直接取引にしてもらうのは、とても難しいです。
信用調査拒否で起こることの2つ目は、「直接取引ではなく、代理店経由の取引になってしまう」です。ぜひ知っておいてください。
信用調査を拒否した実例③:某大手商社系列企業の大内部長

さて、最後の拒否の実例では、皆さまに『取引先を審査する側の視点』をご紹介しましょう。
皆さまは信用調査会社の調査員というと、どこかの企業から「あの会社を調べて」と依頼を受けて、調査取材をするのが仕事と思っていませんか?
確かに、それが調査員のメインの仕事ではあるのですが、私が在籍していた(株)東京商工リサーチでは、調査員は調査をするだけではなく、お客様のサポートもしていました。
お客様というのは、信用調査会社に「あの会社を調べて」と依頼をしてくる会社のことです。
そのお客様に対して、信用調査や取引先審査でお困りごとやお悩みのご相談に乗るのも
調査員の大切な仕事でした。
私の大口のお客様の中に、某大手商社系列企業の有名大企業がありました。おそらく名前を聞けば、経営者の皆さまなら「ぜひ取引をしたい!」と思うであろう会社です。堅実かつ安定した経営を貫き、業界を支えてきた自信と確かな実力を感じる、まごうことなき優良企業。
その企業で取引先審査を担当する『審査部』をまとめ上げていたのが、大内部長(仮名)でした。かれこれ20年以上この企業評価の世界にいる私でも、「この方の見る目は鋭い」と感じる、まさに取引先審査の重鎮のような方。私が毎月1度は必ず訪問し、企業審査についてお悩みの共有や解決策のお打ち合わせを重ねてきた方です。
さて、その大内部長は、信用調査を拒否した会社をどう扱うと思いますか?
大内部長の会社が「○○社を調べて」と信用調査会社に依頼をして、信用調査会社が○○社に取材を申し込んだら、○○社は調査を拒否した。そこで、調査会社は拒否されても独自に調べて報告します。それを見た大内部長はどうしたか。
その○○社を容赦なく取引先候補から外したんです。
○○社との取引を検討していたけれど、拒否なら候補から外す。その対応を徹底していました。
実は私がまだ新米の調査員だった頃に、「調査拒否ではありますが、実は良い会社という可能性もありますよ。もう少しご検討なさってみては」とお伝えしたことがあるのですが、
「いや、でもね佐藤さん、取引って売上に直結するし、すごく大事なんだよ。だからこちらは取引相手の状況を把握して取引の検討をしたくて調査をしているのに、答えないというのは不誠実だし、拒否ってことは公開できない理由が何かあるとか、そもそも隠蔽体質かもしれないし、わざわざそのような企業をうちの取引先として選ぶ理由はないでしょ。それに拒否をされるとさ、その会社のことがわからないから、状況に応じて対策して取引ということもできないしね。状況が悪くても包み隠さず教えてくれる企業の方が全然いいよ」
もう二度そのような甘い言葉は口に出すまいと反省した、私にとっても苦い記憶ですが、私が調査員を辞めるまで、大内部長はずっとこの方針を貫いていました。
皆さまはこれを、大内部長の企業だけの特殊な事例だと思いますか?もしそう思っているなら、それは大きな間違いです。
大手企業や上場企業、そして「この会社は取引先としてふさわしいか」「経営状況はどうなっているか」をしっかり管理して取引しようとする企業では、調査を拒否した会社を取引先候補から外していくのは、むしろ当たり前のことです。
信用調査拒否で起こることの3つ目は、「容赦なく取引先候補から外される」です。心にしっかりと留め置いてください。
「調査を拒否したい」社長に実は多い理由

大手企業や上場企業、そして取引先をしっかり調べてるような会社では、東京商工リサーチや帝国データバンクのような信用調査会社を利用して、取引先をチェックしています。
そして、取引先を審査する担当者は、調査拒否に対してとても厳しい見方をします。
調査拒否となれば、信用調査会社もあなたの会社を高く評価するのは難しいです。
私はそんな“取引先を見る側”の実態をよく知っていますので、やはり信用調査を拒否することはお勧めしません。
「会社の数値や経営状況に何か不安があるから、調査に答えたくない」
「いま会社の経営状況があまり良くないから、調査を拒否しようと思っている」
「いまの会社の状況が知られたら、それこそ取引を断られてしまう気がする」
このように考えて拒否した方がいいのでは…?とおっしゃる経営者の方も多いのですが、このようなケースでも、可能な限り評価が下がらないように対策をして、調査に答える方がデメリットは少ないと私はお伝えしています。
(※会社の状況が悪い時に調査に対応すべきか、については別途記事を書きます)
本日お伝えした内容を参考に、調査に対応するかどうか、皆さまの取引や企業評価にとって最良の判断をなさってくださいね。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
会社信用ドットコム代表 佐藤絵梨子
「貴社が信用調査でどう評価されるか」「調査員の質問にどう答えれば高評価になるか」元調査員が専門的な観点からアドバイスします。






