与信管理のレベルアップ術

与信管理における取引信用保険の弱点【防げない5つのリスク】

2021年8月8日

与信管理における取引信用保険の弱点【防げない5つのリスク】|会社信用ドットコム

調査員をしていた頃、経営者の方に「与信管理をしていないのですか?」とお尋ねすると、「取引信用保険に入っているから大丈夫」とおっしゃる方がよくいました。

確かに、取引信用保険に入っていれば、未回収が発生しても補償されるので安心です。

ですが、保険は万能ではありません。

多くの経営者の方が思わぬところで足をすくわれ、自社の『信用』を失っています。

本記事では、取引信用保険の弱点を解説しています。

与信管理をせず、取引信用保険で安心している場合に盲点になる視点を中心にお伝えしています。安心安全な取引のために、しっかり確認しておきましょう。

この記事を書いている私のプロフィール

佐藤絵梨子(さとうえりこ)
会社信用ドットコム代表・会社信用クリエイター

世界最大の企業情報を保有する (株)東京商工リサーチに入社後、個人から売上1兆円企業まで10年間で延べ7,000社以上を調査。商業登記簿から会社の信用度を見抜くほどになり、全国1,000人以上の調査員中、営業成績1位獲得の実績を誇る。2017年同社を退職。現在は大手企業との取引実現から銀行融資・補助金獲得まで支援するサービスを展開。小さな企業の救世主として期待されている。

*経済産業省認定 経営革新等支援機関(認定支援機関ID:107713006411

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<メディア掲載情報>

SMBCグループの経営層向け会報誌『SMBCマネジメントプラス』2024年12月号
日本実業出版社『企業実務』2024年12月号 など

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取引信用保険とは?

取引信用保険とは?|会社信用ドットコム

取引信用保険とは、取引先企業の倒産や支払い不能などによって売掛金が回収できなくなった場合に、その損失を補償してくれる保険です。

掛取引(後払い)を行う企業が抱える貸倒れリスクを軽減する金融商品として、多くの企業で活用されています。

取引先が倒産しても未回収の売掛金に保険金が支払われるので、いざ未回収になっても損失を最小限に抑えられる、資金補填ができるメリットがありますね。安心して取引ができるという利点もあります。

下記のような大手保険会社が取引信用保険を提供していますので、確認してみてください。

 

与信管理における取引信用保険の弱点

とくに、つね日頃から「自社の信用の維持・向上」に努めている企業にとっては、見過ごせない弱点があります。私が調査員時代から現在まで訪問した様々な企業の中でも、保険に入っているからと安心していて、いざ未回収が発生して慌てるケースを何度も目にしました。

具体的にどのような弱点があるのか、以下でお伝えします。

 

保険金受け取りまでの資金繰りを補えない

取引信用保険の1つ目の弱点は、保険金受け取りまでの資金繰りを補えないことです。

その取引先からの売掛回収をあてにしていた場合、入るはずのお金が入らなくなれば、保険が下りるまでの間の資金繰りが苦しくなる可能性が出てきてしまいます。保険が下りるまでの資金繰りは保険会社ではどうにもなりません。

実際、取引先の売掛金が回収できなかった影響で連鎖的に資金繰り悪化したり、最悪の場合倒産してしまう会社も少なくありません。

普段から保険の条件や、資金に余裕があるかをしっかり確認しておきたいところですね。

 

保険の対象外になるケースがある

取引信用保険の2つ目の弱点は、保険の対象外になるケースがあることです。

取引信用保険では、取引先の信用状態を厳しく調査した上で、契約対象にするかどうかを決定します。

例えば、既に経営状態が悪化している企業や、創業間もない会社など、リスクが高いと判断される取引先は対象外となる可能性があります。継続取引だけを対象とし、スポット取引や個人との取引は対象外になるようなこともあります。

さらに、保険会社ごとに「倒産」と認める範囲や定義が異なる場合があります。

「法的整理を行った場合のみ補償の対象とし、私的整理は対象外」といったように、保険が適用される条件が決まっていることがあります。相手先が法的手続きを取らずに夜逃げをしてしまったり、行方不明になってしまったりしたケース、会社が存続しているにもかかわらず支払いの遅延が続いているケースなども、保険の対象外となる可能性があります。

実は、夜逃げや行方不明、突然連絡がつかなくなる企業はとても多いです(※延べ7,000社以上を調査した元調査員の実感です)。

どのような取引も無条件に補償されるわけではありません。契約内容や対象をよく確認するとともに、保険は万能ではないことをよく理解しておきましょう。

 

全額が保証されるとは限らない

取引信用保険の3つ目の弱点は、全額が保証されるとは限らないことです。

契約内容によっては保険金の支払い上限が設定され、損失全額ではなく一定割合しか補償されないこともあります。大きな損失が発生した場合は、全額をカバーできないこともあるでしょう。

売掛金が回収できなかった場合に、想定していたほどの補償が受けられない可能性がある。このことを念頭に置いておく必要があります。

 

将来の売上減少リスクは残る

取引信用保険の4つ目の弱点は、将来の売上が減るリスクは残ることです。

保険は未回収の売掛金を補償するものですから、その先の売上減少まではカバーしてくれません。相手は倒産等で今後取引ができる状態ではありませんから、その後はその分の売上が減ることは避けられないでしょう。

保険があるからと安心しきって、経営基盤の弱い会社ばかりを取引先にしていると、常に売上に不安を抱える不安定な経営状態になってしまいます。

とくに取引先が少ない場合や、特定の取引先への依存度が高い場合は、注意が必要です。

 

取引先や金融機関からの信用を損なうおそれ

取引信用保険の5つ目の弱点は、取引先や金融機関からの信用を失うかもしれないことです。

取引先から売掛金を回収できない会社は、良い印象は持たれません。ここまでご紹介した1~4つ目のことが起こる可能性すべてを心配されますし、そもそも普段から取引先をしっかりチェックしていないということで、管理体制や考えが甘いと思われます。

何度も未回収を繰り返せば、まわりの目は確実に厳しくなります。私が知る限り、大手企業の取引審査部や銀行、信用調査会社などは、未回収に対する考えが甘い会社を高く評価しません。

「取引信用保険があるから回収できなくても何とかなる」とお金のことだけを考えていると、自社の信用を失う可能性があります。十分気をつけましょう。

 

編集後記:未回収は『信用』を失う

取引信用保険は大変頼りになるものですが、あなたの会社の「信用」までは守ってくれません。

決算書を公開しなければ、未回収が発生したと言わなければ大丈夫と思うかもしれませんが、残念ながらこういった情報はどこからともなく知られてしまうものです。

実際私も調査員時代から現在まで、「あの会社、焦付いた(売掛金が回収できなかった)らしいよ」なんて噂ばなしをよく耳にしています。当事者は何も言っていないのに、周りは皆知っていたりするものなのですよね。

取引先や金融機関、信用調査会社のような第三者からの評価・印象アップに気を配る必要があるなら、そもそも損失が発生しないように対策しておくこと、安心安全な取引先かを見極める『与信管理』をしておくことは絶対に必要です。

取引信用保険の特性や弱点を理解して、自社の経営と信用を守る方法をしっかり考えおきたいですね。

皆さまが安心安全な取引基盤を築き、事業をますます成長させていかれることを心から願っています。

本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
 
会社信用ドットコム代表 佐藤絵梨子




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