与信管理のレベルアップ術

取引先の与信調査は『現地確認』で見抜く【目で見るポイント】

2025年4月13日

取引先の与信調査は『現地確認』で見抜く【目で見るポイント】|会社信用ドットコム

現地確認とは、取引先の事業所を訪問し、経営状況に問題がないかを現場で観察することです。

取引先の実態を見極め、正しい与信判断をするために欠かせないものですが、皆さまはこの現地確認をしているでしょうか?

もししていないなら、その与信管理は精度が低い可能性があります。

本記事では、元信用調査員の私が現地確認について解説します。

この記事を書いている私のプロフィール

佐藤絵梨子(さとうえりこ)
会社信用ドットコム代表・会社信用クリエイター

世界最大の企業情報を保有する (株)東京商工リサーチに入社後、個人から売上1兆円企業まで10年間で延べ7,000社以上を調査。商業登記簿から会社の信用度を見抜くほどになり、全国1,000人以上の調査員中、営業成績1位獲得の実績を誇る。2017年同社を退職。現在は大手企業との取引実現から銀行融資・補助金獲得まで支援するサービスを展開。小さな企業の救世主として期待されている。

*経済産業省認定 経営革新等支援機関(認定支援機関ID:107713006411

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<メディア掲載情報>

SMBCグループの経営層向け会報誌『SMBCマネジメントプラス』2024年12月号
日本実業出版社『企業実務』2024年12月号 など

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企業の実態は「現地」ににじみ出る

企業の実態は「現地」ににじみ出る|会社信用ドットコム

取引先の事務所を実際に目で見る『現地確認』はとても大切です。

ホームページやインターネット情報、決算書、相手との会話からは見えない「会社の実態」をつかむことができるからです。

実際に現地を見て、思っていたのとは全く違う状況に驚くこともあるでしょう。

例えば、ホームページでは好調に見える会社が、訪問すると在庫が山積みで、社内も従業員も暗い雰囲気。とても良い会社だとは思えなかった。

逆に、電話口では控えめな印象だった会社が、立派な自社ビルで顧客の来客も絶えず、好調そのものだった。

など、実際見ると印象がまったく変わることがあります。

現地の状況は、間違いなくその会社の実態を表す、信頼性の高い情報です。今時点の最新の情報でもあります。

書面や相手との会話でだけではわからない取引先の実態を正しく把握し、「違和感」や「安心感」にも気づくことができる、与信判断にはなくてはならない情報です。

 

取引先の現地確認で見るポイント

取引先の現地確認で見るポイント|会社信用ドットコム

現地で見るポイントは、あらかじめチェクリストとして作成しておくと、抜け漏れなく確認できます。

ここでは、元調査員の経験から、とくに見るべきポイントを7つ厳選してご紹介します。

 

事務所・設備の状態

事務所や設備の状態を見ることで、その会社の経営状況や資金力、管理体制がわかります。

例えば、老朽化が目立つ場合は、改装や整備の資金が不足している可能性が考えられます。資金繰りの悪化や経営が行き詰まっていないか、厳しく確認するきっかけにもなりますね。

逆に、新規設備の導入や建物改装等を定期的・拡大方向で行っていれば、業績や資金繰りの好調ぶりが見て取れます。

本社だけでなく、支店や工場、倉庫の状態など、網羅的に確認しておくことが大切です。

 

来客対応の質

経営状況の良し悪しは、訪問時の受付対応からも見て取ることができます。

経営状況が良い企業は、取引先に対する対応やその対応をする社員がしっかりしているものです。逆に、会社が危険な状況になってくると、受付電話や訪問時にしばらく誰も出てこない、社員の対応が雑、来客スケジュールが社内で伝わっていない、など来客対応の質は著しく落ちます。

初回訪問時の印象をしっかり覚えておき、対応が初回と変わっていないかの「変化」もよく見ておきましょう。

 

現場の雰囲気と従業員の様子

経営状況や業績の好不調、組織が健全に動いているかは、従業員の働きぶりや職場の雰囲気に滲み出ます。

経営者は会社を守るために良いイメージを演出しようとするものですが、従業員はそうとは限りません。活気がなく士気が低い場合は、経営不振や内部問題を抱えていることも多いです。

目を凝らしてよく見てみましょう。

 

在庫や情報の管理状況

商品や資材の置き方、保管状態を見れば、商品や製品がスムーズに売れているか、経営状況の好不調ぶりがわかります。

販売不振になると、社内に在庫が増えたり、管理が雑になったりするケースが多いです。過剰在庫や不良在庫と思われるものがある場合は、業績や資金繰りの悪化も考えられるでしょう。

社内の情報管理の状況もよく見てください。重要情報の管理体制、書類の保管方法からは、企業の信頼性やコンプライアンス意識を読み取ることができます。

経営状況が良い企業は、情報をしっかり管理しているものです。ファイルや書類が無防備に放置されているような状態なら、取引で重大な問題が発生する可能性も高いです。

 

掲示物と情報共有の仕組み

掲示物や情報共有の仕組みからは、社内のコミュニケーションの状況や、社内一丸となって改善する組織力の強さを見て取ることができます。

私が調査でよく見ていたのは、工場やオフィスの壁面に掲示された業務カレンダー、品質目標、進捗管理ボード、作業手順書やマニュアルが現場で実際に使用されている形跡などです。

必要な情報が整理されておらず、社内で適切に情報共有されていない場合は、経営状況の悪化や将来の経営問題の発生可能性を推察できます。

どれも重要な視覚情報です。会社訪問時にはさりげなく目で確認しましょう。

 

5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)の実践度

5Sというのは、整理・整頓・清掃・清潔・躾のことです。製造業でよく取り入れられ、経営の品質に繋がるとされている指標です。

オフィスや工場の清潔さ、整理整頓の状態からは、経営者の管理能力、従業員の優秀さが見えてきます。

私の経験からも、経営状況が良い会社は間違いなくこの5Sが行き届いています。逆に状況が悪化してくると、清掃が行き届かなくなり、事務所や工場から清潔さが失われていきます。

変化も含め、注意してよく見てください。

 

取引先との関係性の痕跡

関係性の痕跡というのは、例えば、取引先からの表彰状、感謝状、カレンダーの有無、また商談スペースの使用頻度などです。取引実績や営業活動の活発さ、外部との良好な関係性があるかを見て取ることができます。

一昔前だと、商談スペースの灰皿に溜まった吸い殻の多さから、「たばこを吸いながら長い時間話せるだけの関係性の深い取引先があるのかも」と推察するような見方ができました。

今はオフィス環境も変わりましたが、このような細かな痕跡から取引先との関係性の深さを読み取る視点が大切なのは変わりません。

経営状況が悪化してくると、取引先の痕跡は減っていきますし、逆に好調な場合は取引先の痕跡を社内の至る所で見ることができるようになるはずです。

変化も含めよく確認してください。

 

現地確認で与信管理の精度を高めるコツ

現地確認で与信管理の精度を高めるコツ|会社信用ドットコム

ただ見るポイントに沿って現地を確認するだけでは、精度の高い与信管理はできません。

『営業マンが現地を見て社内共有する仕組みを整える』『現地の確認は定期的に行い「変化」を見る』という2つのポイントを押さえて行うことが大切です。

 

営業マンが現地を見て社内共有する仕組みを整える

普段からその会社と接点がある営業マンは、取引先の情報を1番早く、正確につかむことができます。

与信管理を行う専門部署がある場合は、専門部署と営業マンで必ず相互に情報を共有しましょう。共有ができていないなら、まず体制を整えることから始めてください。

営業マンが現地情報を“意識的に”確認する仕組みも必要です。

例えば、営業マンに対する与信管理の基礎知識の取得支援、現地確認のルール化、現地で見るべきポイントや確認頻度の設定。そして、確認した情報を社内で共有する仕組みがあるといいですね。

現地情報を組織内でしっかり活用できる体制を整えておきましょう。

 

現地の確認は定期的に行い「変化」を見る

現地確認では、現地の状況から今現在の良し悪しを読み取るだけでなく、これまでと現在の「変化」から会社の状況を読み解くことが大切です。

以前は好調ぶりが見て取れたのに、今回はどうも不調に見える。以前は伸び悩んでいるように見えたが、今回は活気もあり好調そうだ。そんなマイナス、プラスのどちらの変化は、現地を定期的に見ているからこそ感じ取ることができるものです。

少なくとも年に1回、変化のスピードが早い企業や要注意先の場合は、半期・四半期に1度の頻度で現地を確認しましょう。

時には「アポなし・抜き打ち」で訪問してみることもおすすめします。相手は事前に取り繕うことができませんから、“会社の本来の姿”を見ることができます。

 

元調査員の編集後記

元調査員の編集後記|会社信用ドットコム

調査員時代、現地確認で会社の実態がわかり、驚くことが何度もありました。

ホームページの写真や電話口の相手の話しぶりは好調そのもの。でも、実際に事務所を見に行くと、その印象とはまったく違っていた。このようなことは日常茶飯事でした。

薄暗い照明、積みあがる在庫、人の気配が薄いオフィスビル内にポツンと存在する閑散とした事務所…「こんな場所で健全な会社経営ができるだろうか…」と思うような会社も目にしました。

所在地とされる場所に会社がなかったこともあります。

逆に、訪問前はそうは感じなかったのに、現地で見た会社の様子は好調そのものというケースも少なくありませんでした。

小規模企業や中小企業の場合、ホームページがないことや、十分な資料がそろわないことも多いです。その分、現地確認で得る情報は大変貴重でした。

与信管理の情報源を、相手との会話や決算書・書類の分析、ホームページやインターネット情報の確認に頼っていると、このような貴重な情報を見逃してしまいます。

その見逃しは、巡り巡って取引における問題や損失発生につなってしまうかもしれません。

ぜひこの機会に、現地情報を取り込んだ管理ができているか、見直してください。

この記事が皆さまの与信管理のレベルアップにつながれば、元調査員として嬉しく思います。

本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
 
会社信用ドットコム代表 佐藤絵梨子




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