
実はそうとも限りません。
確かに、取引信用保険にはメリットがたくさんあります。
しかしながら、万能ではないのです。
弱点を知っておかないと、思わぬところで足をすくわれます。
最悪の場合、あなたの会社の『信用』が大きく傷つく可能性もあります。
「どういうこと?」と思った方は、ぜひこのまま読み進めてみてくださいね。
この記事を書いている私は、信用調査会社(株)東京商工リサーチで延べ7,000社以上を調査した元・調査員です。与信管理では全国1,000人の調査員中、営業成績1位を獲得した実績があります。
本記事では、取引信用保険が防げないシチュエーションをご紹介しています。
その弱点を攻略し、安心安全な取引環境を築く方法も解説しました。
ぜひ最後までお読みくださいね。
取引信用保険とは?
取引信用保険とは、取引先企業の倒産や支払い不能などによって売掛金が回収できなくなった場合に、その損失を補償してくれる保険です。
掛取引(後払い)を行う企業が抱える貸倒れリスクを軽減する金融商品として、多くの企業で活用されています。
例えば、下記のような大手保険会社が取引信用保険を提供しています。
取引信用保険とファクタリングの違い
取引信用保険の話をすると、ファクタリングとの違いを聞かれることがありますので、簡単に説明します。
「取引信用保険」と「ファクタリング」も取引先の信用リスクや資金繰りの不安をカバーする方法です。どちらも売掛金に関する手段ですが、その目的や使いどころが大きく異なります。
取引信用保険は、「万が一の貸倒れ」に備える"保険"。ファクタリングは「今すぐ現金が必要」なときに使う"資金調達手段"です。
以下の表で、それぞれの特徴を整理しました。参考にしてください。
取引信用保険とファクタリングの違い
項目 | 取引信用保険 | ファクタリング |
目的 | 取引先の倒産などによる貸倒れ(※売掛金が回収できなくなること)リスクに備える | 売掛金を早く現金化して資金繰りを改善する |
タイミング | トラブルが起きたあとに補償される | 売掛金の回収を前倒しする |
費用 | 保険料 | 手数料 |
お金の動き | 損失が出たら保険金が支払われる | 売掛金をファクタリング会社に売却して現金を得る |
審査の考え方 | 保険会社が取引先の信用を審査する | ファクタリング会社が売掛先の信用を審査する |
取引信用保険にも審査や条件がある
取引信用保険では、対象となる取引先(=売掛先)の信用力について、保険会社が審査を行います。
必ずしも希望通りの保証が受けられるとは限りません。
定期的な見直しもあり、取引先の信用状態が悪化すると、保証内容が引き下げられることもあります。
保証額も売掛金の全額が補償されるとは限りません。保険会社や契約内容により支払割合や上限額は異なります。
保険会社ごとの条件や商品の特性を十分に理解して加入することが大切ですね。
取引信用保険のメリット
取引信用保険には次のようなメリットがあるのか。ここでは5つのメリットをご紹介します。
売掛金の回収リスクを軽減できる
取引信用保険のメリットの1つ目は、売掛金の回収リスクを軽減できることです。
万が一、取引先が倒産しても未回収の売掛金に保険金が支払われるため、損失を最小限に抑えられます。
資金繰りの安定につながる
取引信用保険のメリットの2つ目は、資金繰りの安定につながることです。
回収不能リスクを保険でカバーできることで、予期せぬ資金ショートを防ぎ、経営の安定性が高まります。
安心して新規取引を開始できる
取引信用保険のメリットの3つ目は、安心して新規取引を始められることです。
新規取引先や支払いサイトが長い業界、信用に不安がある相手との取引も、リスクを軽減して安心して行えます。攻めの経営判断を支える材料にもなります。
取引先のリスクを客観的に見直せる
取引信用保険のメリットの4つ目は、取引先のリスクを客観的に見直せることです。
保険の付保対象外となる企業は、何らかのリスクを抱えている可能性があります。注意すべき取引先を早期に把握できますね。
与信管理の強化につながる
取引信用保険のメリットの5つ目は、与信管理の強化につながることです。
保険会社の審査結果は、今後の取引や他社との取引判断に活用できます。自社の与信判断の精度を高める手助けになります。


取引信用保険の弱点!防げない7つのシチュエーション
取引信用保険には沢山のメリットがありますが、万能ではありません。
「こんなはずじゃなかった」と後悔しないためにも、保険の弱点をきちんと理解しておきましょう。
保険受け取りまでの資金繰りカバー
取引信用保険が防げないシチュエーションの1つ目は、保険受け取りまでの資金繰りをカバーすることです。
保険は下りるまでに時間がかかる場合があります。資金に余裕があればいいですが、もしその取引先からの売掛回収をあてにしていた場合、その間の資金繰りが苦しくなる可能性が出てきてしまいます。
実際、取引先の売掛金が回収できず、連鎖的に経営が悪化したり、最悪の場合倒産してしまう会社も少なくありません。
保険の条件や資金の余裕度はしっかり確認しておきたいところです。
夜逃げ・行方不明・支払い遅延など
取引信用保険が防げないシチュエーションの2つ目は、相手の夜逃げ・行方不明などになった場合の補填です。
取引信用保険では、保険会社ごとに「倒産」と認める範囲や定義が異なる場合があります。
たとえば、「法的整理を行った場合のみ補償の対象とし、私的整理は対象外」といったように、保険が適用される条件に違いがあるのです。
相手先が法的手続きを取らずに夜逃げしてしまったり、行方不明になってしまったりしたケース、あるいは会社が存続しているにもかかわらず支払いの遅延が続いているケースなども、保険の対象外となる可能性があります。
実は、夜逃げや行方不明、連絡が取れなくなる会社は多いものです(※延べ7,000社以上を調査した実感です)
契約内容や対象をよく確認するとともに、保険は万能ではないことをよく理解しておきましょう。
対象外の取引先が出てくる可能性
取引信用保険が防げないシチュエーションの3つ目は、保険対象外になるケースがあることです。
取引信用保険では、取引先の信用状態を厳しく調査した上で、契約対象にするかどうかを決定します。
例えば、既に経営状態が悪化している企業や、創業間もない会社など、リスクが高いと判断される取引先は対象外となる可能性があります。
継続取引のみを対象とし、スポット取引や個人との取引も対象外になることが多いです。
どのような取引先についても無条件に補償されるわけではありません。注意しましょう。
全額保証にならないケース
取引信用保険が防げないシチュエーションの4つ目は、全額保証にならないケースがあることです。
契約内容によっては損失全額ではなく一定割合しか補償されないこともあります。保険金の支払い上限が設定され、大きな損失が発生した場合は全額をカバーできないこともあるでしょう。
売掛金が回収できなかった場合に、想定していたほどの補償が受けられない可能性がある。このことを念頭に置いておく必要がありますね。
売上が減る可能性
取引信用保険が防げないシチュエーションの5つ目は、将来の売上が減る可能性をカバーできないことです。
相手は倒産等で今後取引ができる状態ではありませんから、その後はその分の売上が減ることは避けられないでしょう。保険は未回収の売掛金を補償するものであり、その先の売上減少まではカバーしてくれません。
保険があるからと安心しきって、経営基盤の弱い会社ばかりを取引先にしていると、常に売上に不安を抱える不安定な経営状態になってしまいます。
とくに取引先が少ない場合や、特定の取引先への依存度が高い場合は、注意が必要です。
悪い噂の大流行
取引信用保険が防げないシチュエーションの6つ目は、悪い噂が広まることです。
取引先から売掛金が回収できなかった…そんな話はできるだけまわりには知られたくないものです。でも残念ながら、こういった情報はどこからともなく知られてしまうもの。人は噂が大好きですからね。
実際私も調査員時代も今でも、「あの会社、焦付いた(売掛金が回収できなかった)らしいよ」なんて話をよく聞きます。
保険で資金は補填できても、回収できなかったというマイナスイメージは防ぎきれません。そもそも売掛金が回収できないという状態そのものを防ぐことも考えておきたいですね。
取引先や銀行・株主からの低評価
取引信用保険が防げないシチュエーションの7つ目は、取引先や銀行・株主からの低評価です。
取引先から売掛金を回収できない会社は、良い評価を得にくいです。保険が入るまでの資金繰りが心配ですし、全額回収できなければマイナスが発生します。
そもそも取引先をしっかりチェックしていないということで、管理体制の心配や考えの甘さを指摘されることもあるでしょう。何度も焦付きを繰り返せば、あなたの会社を見るまわりの目は確実に厳しくなります。
私が知る限り、銀行や大手企業の審査部、信用調査会社も焦付きへの考えが甘い会社を高く評価しません。十分気をつけましょう。

【実話】売掛金400万円が回収不能になった会社の話
調査員時代の話です。
取引先の倒産で、400万円の売掛金が回収できなくなった会社の調査を担当しました。
業界内でもその話が出回っていたのでしょう。「あの会社に大きな焦付きがあったらしいから調査してほしい」と複数の企業から立て続けに調査依頼が入りました。
400万円というのは、年間の最終利益が吹き飛んでしまう金額です。
依頼者は「どれだけの回収が見込まれるのか」「直近の業績への影響は」「その会社との取引がなくなることで今後の売上はどうなる」といった点を詳しく知りたがっていました。
結果として、この会社は取引信用保険に加入しており、9割は補填されるとのことでした。
しかしながら、焦付きが発生した直後に調査が入ったこと。しかも複数社から一斉に。
そして、こんなにも取引先を不安にさせてしまったことに、調査先の社長と会長は強い危機感を持ったようでした。
これまであまり取引先チェックをしておらず、今後どう取引先管理をすればいいか、真剣に相談されたことをよく覚えています。
確かに取引信用保険への加入は「万一に備えている」と評価される面もあります。でも、私の経験では、それだけでは不十分だと思っています。
保険で金銭的な損失は補填されても、焦付きが発生した事実は変わりません。取引先や銀行、そして信用調査会社などは、その『焦付きが発生した事実』に強い不安を感じます。
取引信用保険があるからお金の心配はない。そのような考えだけで、取引先のチェックや売掛金回収不能を防ぐ努力をしなければ、周囲からは「取引先のチェックもしていない」「管理体制が甘い」「また焦付きを出した」という良くないイメージがついてしまうでしょう。
ぜひみなさまも、取引をどう管理すべきか、いま一度しっかり考えてみてください。
売掛金の回収不能は『信用』を失う
取引信用保険に入っていれば、いざという時の損失が補填され、確かに安心です。
ですが、保険金でお金は回収できたとしても、あなたの会社で焦付きが起きたという事実は変わりません。何度も繰り返せば、あなたの会社もまわりから信用されなくなっていきます。
そこで、そもそも損失が発生しないように予防する仕組みが必要です。
『与信管理』と呼ばれるものですね。
取引先をチェックし、取引の可否や取引上限額などの取引ルールを決め、安心・安全な会社と取引できる体制をつくる仕組みです。
取引信用保険も与信管理も、取引管理や売掛管理に効果的なものですが、目的や使いどころに違いがあります。
取引信用保険:問題が起きた時の損失を補填するもの
与信管理:そもそも問題が起きないようにするもの
この取引信用保険×与信管理を組み合わせれば、取引の安全性はより一層高まり、あなたの会社の『信用』も守ることができます。
与信管理については以下の記事で解説しています。必要なものを読んでみてください。
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これから与信管理を始める方、与信管理体制を見直したい方のための『与信管理のスタートガイド』です。与信管理のプロフェッショナルが、実務に役立つ具体的な与信管理体制の作り方や失敗しないポイントをお伝えします。
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取引信用保険の弱点攻略で会社を守る
繰り返しますが、取引信用保険はいざという時に大変頼りになりますが、万能ではありません。
とくに銀行や取引先、信用調査会社など、第三者からの評価・印象アップに気を配る必要があるなら、そもそも損失が発生しないように対策しておくことは絶対に必要です。
取引信用保険の特性や弱点を理解して、自社の経営と信用を守る方法をしっかり考えおきたいですね。
みなさまの会社が安心安全な取引基盤を築き、事業をますます成長させていかれることを心から願っています。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
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