
最近、こんなご相談をよくいただきます。
利益が出たから手元に使えるお金が増えているかというと、そうでもない。
ずっと黒字なのに、資金繰りは苦しいまま。
同じ悩みを抱えている方もいるのではないでしょうか。
そこで本記事では、黒字なのにお金がない理由を解説します。
この記事を書いている私は、信用調査会社(株)東京商工リサーチの元調査員です。現在は企業審査の経験を活かし、融資や補助金の審査突破をサポートしています。
お金がないのに「大丈夫そう」と思ってしまう原因についても触れました。
「どうしてお金がないんだろう…」という疑問を解決したい経営者の方は必読です。
ぜひ最後までお読みくださいね。
「黒字なのにお金がない状況」を放置すると危険
黒字なのにお金がないと感じているみなさま。
みなさまはおそらく、その理由を突き止めようとして、これまでにいろいろと情報収集をしてきたのではないでしょうか。
支援機関や専門家に相談したことがある、という方もいるかもしれませんね。
そして、
「ちょっと難しくてよくわからない」
「一筋縄ではいかなそう」
と思って、そのままにしている方もいるのではないでしょうか?
まず最初にお伝えしますが、黒字なのにお金がない状況は、そのまま放っておかない方がいいです。
なぜなら、お金がなければ会社はまわらないからです。
売上や利益ばかりを追いかけていても、肝心のお金がなければ、最悪、倒産してしまいます。
私は調査員をしていた頃から今に至るまで、本当にたくさんの企業を見てきましたが、お金がない状況を改善するには、やはり時間がかかります。
苦しくなればなるほど、改善策や選択肢は減っていきます。
改善の難易度も上がり、成功の確率も下がっていきます。
大切な会社を守るためにも、ぜひ早めに原因を突き止め、対処してください。

損益計算書の『利益』だけ見てると失敗しがち
ところで、「黒字だからお金は大丈夫」と思っている方は、損益計算書の「利益」にばかり注目していませんか?
実は、「利益=お金」ではありません。
損益計算書は「儲け(利益)」を見る書類であって、「お金の出入り」をすべて表しているわけではないんですね。
利益と実際の現金の動きとは別物です。
なので、「利益が出ている=お金がある」というイメージでいると、実はお金がない!ということが起こります。
利益が出ているのにお金がない理由はいろいろあります。
でも、まずは「利益=現金ではない」「利益とお金は違うもの」ということを頭に入れておきましょう。

黒字なのにお金がない理由
黒字なのにお金がないのは、会社のお金が動くタイミングや、損益計算書には載らない現金の動きなど、さまざまな理由があります。
ここではよくある理由をご紹介しますね。当てはまるものがないか確認してみましょう。
売上は計上したが入金はまだ先
黒字なのにお金がない1つ目の理由は、売上は計上したが入金はまだ先だからです。
「お客様に請求していて、売上もたってるんだけど、入金は1〜2か月先なんだよね」
こんなケースでは、帳簿上は利益が出ていたとしても、現金はまだ手元にない状態です。
帳簿上は利益だけ見て「大丈夫」と思っていると、実際はお金がないというズレが起きますね。
売上が伸びて支払も増える現象
黒字なのにお金がない2つ目の理由は、売上が伸びても支払いが増える現象が起きているからです。
売上が伸びている時によく起こるのがこの現象。
仕事が増えて売上も増えた分、必要な材料費や外注費・人件費の支払いも増えて、しかも支払いが先に来る。
帳簿上は利益が出ていても、実は支払いでお金がない。成長著しいほど資金が不足しがちです。
売れ残りや在庫が多い
黒字なのにお金がない3つ目の理由は、売れ残りや在庫が多いからです。
たとえば100万円分の商品を仕入れて、そのうち60万円分しか売れなかったとしましょう。
実際の支払いは100万円ですが、損益計算書では売れた60万円分だけが費用(売上原価)として計上されますよね。売れ残りの40万円分のお金は払っていても、その年の費用にはなりません。
現金は出ていっていても、利益は減らないので、黒字なのにお金がない状態になりやすいです。
「利益」からは見えない借入金の返済
黒字なのにお金がない4つ目の理由は、借入の返済は利益からは見えないからです。
借入金の返済は損益計算書には出てきません。
利益=お金と考えていると、借入返済で減った現金のことを見逃してしまいます(⇐これを見逃している経営者の方が多いです)。
とくに借入の返済が多い状態だと、利益とお金のズレが大きくなりやすいです。
売掛金の回収が遅れている
黒字なのにお金がない5つ目の理由は、売掛金の回収が遅れているからです。
売上が計上されても、代金の回収が遅れていれば現金は入ってきません。相手が払えなくなって「焦付き」になると、さらに大変です。
損益計算書では売上や利益に反映されていても、実際は現金が入ってきていないので、黒字でも手元にお金がない状態になりますね。
大きな設備投資がある
黒字なのにお金がない6つ目の理由は、大きな設備投資があるからです。
設備の購入や工事等で多額の支出があると、実際には通帳からお金が出ていきます。でも、こうした支出はすぐに費用にはなりません。
「あとで少しずつ費用にしていくもの」として扱われ、帳簿ではいったん資産に入れられ、そこから減価償却という形で少しずつ費用にしていきます。
そうすると、利益は減らないのにお金は減っている、というズレが生まれ、「黒字なのにお金がない」状態が起きやすいです。
融資の借り方や使い方が下手
黒字なのにお金がない7つ目の理由は、融資の借り方や使い方が下手だからです。
自己資金だけで乗り切ろうとしたり、借入額が足りていなかったりすると、黒字でも資金不足に陥りがちです。
借入のタイミングや返済期間が適切でない、目的に合った調達方法が選べていない、といったケースでも資金繰りは苦しくなります。
複数の借入を繰り返すうちに、返済だけで手元資金が尽きてしまうケースもよく見かけますね。
融資の借り方や使い方が下手だと、資金繰りは楽になりません。これ、かなり大事なポイントです。

黒字なのにお金がない理由をまとめました。

黒字だから融資は大丈夫…ではない!
さて、黒字だけどお金がない状態は危険だという話をすると、
「黒字なんだから、融資は問題ないはず」
「利益が出ているなら、銀行も貸してくれるだろう」
とおっしゃる経営者の方もいますが、現実はそう甘くはありません。
銀行の融資担当者をなめてはいけません。
彼らは、企業の状態を見抜くプロです。
たとえ黒字でも、決算書や面談の中で「資金繰りが厳しそうだな」「手元にお金が少ない体質だな」という状況は、すぐに見抜かれます。
銀行は、利益が出ていて、返済にも問題がない企業にはお金を貸したいものです。
常に手元現金が少ない体質だと、これから売上や利益をずっと上げ続けでもしないと、スムーズな返済ができません。
何かの拍子で売上や利益が落ちる心配があれば、銀行の見る目も厳しくなります。
最近はコロナ感染拡大やトランプ関税など、企業を取り巻く環境が不安定です。いつも手元の現金が少ない体質は、とくに警戒されてしまいます。

「黒字なのにお金がない原因」を正しく突き止めるには
黒字なのにお金がない理由はさまざまです。複数の原因が絡み合っている場合もあります。
そして、正確な原因は、ただ決算書を見るだけでは突き止められません。
資金繰り表を作成したり、資金の過不足が起こる時期や金額を明確にしたり、回収サイトと支払サイトのバランス、在庫が適正量かのチェックなどが必要です。
会社の状況によっては、社長だけでなく、現場の経理担当や営業担当との情報共有も必要かもしれませんね。
数字を見るのが苦手だったり、状況をうまく整理できないと、原因の特定が難しいと感じるかもしれません。
資金繰りの苦しさから抜け出したいのであれば、専門家に相談することも検討すべきでしょう。
「たぶんこれが原因かな」と曖昧なままにしていては、根本的な解決にはなりません。
原因がわかっても、すぐに解決とはいかず、地道に改善していく必要があるものも多いです。
もし本当に改善を望むのであれば、早めに原因を見極めることをおすすめします。
【実話】黒字なのに倒産してしまった老舗企業の話
私が信用調査会社の取材を通じて出会った企業の話です。
その会社は、地元の方なら誰もが知る、長年続く老舗企業。
社長は温厚篤実な方で、私も取材でお話をさせていただくのをいつも楽しみにしていました。
過去の実績を見ると、毎年安定して黒字を出している。ただ、多少資金繰りが”忙しそう”なのが気になっていました。
そんな中で、原材料や燃料の価格がじわりじわりと上がっていきます。当然、その会社の仕入れ負担も膨らんでいきました。
社長は、資金繰りの改善を目指して、売上と利益の拡大を進めました。
売上を上げて、もっと利益を出して、そうすれば資金繰りも楽になると。
実際、売上も利益も順調に伸びていきました。
でも、それに伴って仕入れや外注費が膨らみ、しかも支払いは回収よりも早く発生します。
資金がこれまで以上にどんどん先に出ていく構造になったんですね。
でも、社長は「黒字は出ている」「利益が出ているから銀行も貸してくれる」といって、そのまま経営を続けていきました。
そして、取材からわずか1年ほどで倒産してしまったのです。
黒字が出ていることで安心し、実際の資金の流れは利益ほど重く受け止めていなかったことが、致命的でした。
帳簿上の利益が出ていても、手元にお金がなければ会社を続けることはできません。
「黒字だから大丈夫」と思い込まず、資金の流れにも目を向けること。
これが、経営を守るうえで欠かせない視点だと、改めて痛感した出来事でした。
みなさまも、お金がない状況を放置しないことはもちろん、改善を進める際には、誤った対策を取らないようご注意ください。
心配な方はお話を伺います。こちらからお問い合わせください。
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本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
会社信用ドットコム代表 佐藤絵梨子