取引先を広げたいときや、大手企業と直接取引したいときに、最初のハードルになるのがこの「取引口座」です。
名前は耳にしていても、実際にどのような仕組みで、なぜ必要なのか、詳しくご存じない方もいらっしゃると思います。
この記事では、企業間取引口座の基本から、そのメリット、口座開設を断られやすい企業の特徴と対処法まで解説しました。
「せっかく取引のチャンスがあるのに、口座を開設してもらえず先に進めない」そんなお悩みを抱える前に、ぜひ参考にしてください。
この記事を書いている私のプロフィール
佐藤絵梨子(さとうえりこ)
会社信用ドットコム代表・会社信用クリエイター
世界最大の企業情報を保有する (株)東京商工リサーチに入社後、個人から売上1兆円企業まで10年間で延べ7,000社以上を調査。商業登記簿から会社の信用度を見抜くほどになり、全国1,000人以上の調査員中、営業成績1位獲得の実績を誇る。2017年同社を退職。現在は大手企業との取引実現から銀行融資・補助金獲得まで支援するサービスを展開。小さな企業の救世主として期待されている。
*経済産業省認定 経営革新等支援機関(認定支援機関ID:107713006411)
企業間の取引口座開設とは?

企業間の取引口座とは、企業同士が新たに取引を始める際に、相手先を自社の顧客管理システムに登録し、発注・請求・支払いといったやり取りができる状態にすることを指します。
銀行で開設する預金口座とは異なり、ビジネス上の「取引先登録」を意味します。
具体的には、住所や代表者名、連絡先、振込口座などの情報を提出し、契約書の締結を経て、相手企業から「取引可能な相手」として認められると、社内で取引先番号(口座)が付与され、正式に取引を進められるようになる、これを取引口座の開設と呼んでいます。
開設にあたって、与信審査や信用調査が行われることもあります。取引口座の開設には、取引相手を一定の条件で選別することで、業務の効率化や、安心して取引できる企業を絞り込む「リスク管理」の役割もありますね。
もう少し簡単に言うと、取引口座を持つというのは「相手企業の正式な取引先リストに名前が載ること」とも言えます。そのリストに登録されることで、お互いに信頼し合っている状態で、スムーズに注文や請求のやり取りができるようになります。
銀行が『口座を持つ人とだけ取引する』のと同じように、企業間でも、口座がある会社=取引する会社、ということです。
企業間で取引口座を開設するメリット

取引口座を開いてもらうと、どのような良いことがあるのでしょうか?
ここでは、私が数々の取引口座開設の現場を見てきた中で感じているメリットを、代表的なものに絞ってご紹介します。
取引がスムーズになる
やはり最大のメリットは、取引がスムーズになることですね。取引先として口座が登録されれば、請求書の発行や入金の処理が滞りなく進みます。
複数の部署や拠点との取引も、口座があることで情報が共有されるので、やり取りがスムーズになります。
取引規模を拡大しやすい
取引口座があると、より大きな取引や継続的な契約が舞い込みやすくなります。口座がある企業はすでに信頼されている企業ですから、相手も安心して大量注文や定期的な取引をしやすくなるからです。
新商品の販売先、新たな仕入先などを探す場合に、まずは取引口座がある取引先の中から候補を探すという企業も多いですよ。
資金繰りが円滑になる
取引口座を持つもの同士は、信頼できる大切にすべき取引先ですから、入金や出金のタイミング、取引条件の交渉がしやすくなります。
不利・理不尽な条件になる可能性が低いので、収支サイクルや利幅も安定しやすくなりますね。
すでに口座登録があるので手続きのモタつきもありませんから、出入金の遅れの心配も少なく、資金繰りの見通しも立てやすくなります。
信用力が高まる
取引口座があると、会社の信用力が高まります。特に大手企業や上場企業の取引口座を持つ効果は絶大で、まわりから「信頼できる企業」として見てもらいやすくなります。
新規取引先だけでなく、既存の取引先や金融機関からも信頼されやすくなるので、将来的な取引拡大や資金調達の可能性が広がります。
私が在籍していた信用調査会社でも、大手に取引口座があることは良い印象を持って受け止められていました。信用力アップの効果は計り知れません。
口座開設を断られやすい企業の特徴と対処法

「取引先の与信審査に落ちてしまい、取引口座を開設してもらえない」
「直接口座を開設してもらえず、代理店経由の取引になってしまう」
このようなご相談をよくいただくのですが、実は取引口座の開設を断られやすい企業にはいくつか共通点があります。
その特徴を確認し、当てはまる場合は対策を考えておきましょう。
業歴が浅い
業歴が浅いと、実績が少ない、まだ企業として安定していないと思われ、取引を見送られやすいです。代理店経由の取引になってしまうのも、このような懸念からですね。
業歴が浅い企業では、実際は実力があっても、ホームページや官報公告、許可登録の情報更新などの情報公開が甘い傾向があります。相手にその実力が正しく伝わらないせいで口座開設を断られているケースもよく見かけます。
対策は、この後ご紹介する「情報公開性」や「信用調査対策」に取り組むこと。業歴が短い場合は特に、実力を『伝える』対策に力を入れることが大切です。
相手が確認するであろう媒体では、情報公開を徹底してください。これまでに築いた実績、成長性、顧客からの評価、経営者の経験や経歴もアピールすると効果的です。
経営状況が思わしくない
経営状況が悪い場合は、相手はどうしても焦付きや倒産、それに伴う取引の中断を警戒します。口座開設どころか、取引そのものを見送られる可能性が高いです。
決算書の数字が悪い、経営不安の情報が聞かれる、取引銀行との関係が思わしくない―そのような状況だと、特に警戒されます。
対策は、警戒される状況を早めに改善するしかありません。改善途中の場合は、改善のための具体的な計画を強くアピールするなど、信頼獲得に努めてください。
情報公開性が低い
取引口座を開設して、しっかり取引先を管理していこうと思うような会社は、とにかく安心安全な企業と取引がしたいという思いが強いです。
決算書を見せるか、数字を公開するか、信用調査に答えるかなど、誠実に情報開示をしないなら即・取引対象外にするという企業もあるほどです。
対策としては、まずホームページや登記簿、許認可の更新、決算公告などでしっかり情報を開示できているか確かめましょう。
例えば、建設業の決算変更届(※毎年の決算内容や工事実績を報告する届出)が提出されていない、決算公告を公告していない企業をよく見かけますので注意してください。
取引先調査票の記入が必要な場合や、信用調査が入る場合は、その際の情報公開をしっかりすることも必要です。
情報がないことは相手を不安にさせ、取引そのものや、口座開設を踏みとどまらせる原因になります。普段から情報の公開性には十分注意してください。
取引実績が少ない
取引口座を開設する企業の中には、初回取引時に開設することもあれば、一定回数の取引を経て開設(登録)する企業もあります。後者の場合、取引実績が少ないとどうしても口座の開設は難しくなります。
ただ、まったく対策がないわけではありません。取引実績が少なくても、その取引内容の質や担当者との親密性、自社の将来性や成長性をアピールしたことで開設に至っているケースもあります。
取引実績を増やしていくこととあわせて、こちらからの積極的なアピールにも力を入れてみてください。
信用調査会社の評価が低い
取引口座の開設で相手先の審査をしている企業では、東京商工リサーチや帝国データバンクなどの信用調査会社に依頼をして相手先を調べていることが多いです。
ですので、そもそも信用調査会社の評価が著しく低い場合は、安心安全な取引ができないと警戒され、口座開設を断られる可能性が高まります。
以前、とある経営者様が、大手企業の口座開設の審査結果待ちをしていたら、「信用調査会社で情報を調べたら、貴社の情報が登録されていなかったのだけれど、お宅は大丈夫な会社ですよね?」と言われたと、慌ててご相談にいらっしゃったことがありました。
信用調査会社の情報は取引審査でよく見られていますので、自社の情報が登録されているかを確認するとともに、調査が入った際には適切に対応できるよう、準備をしておきましょう。
信用調査対策については、様々な記事を配信しています。必要な記事を読んでみてください。
元調査員の編集後記

企業間取引口座の開設は、スムーズな取引やその拡大のための重要なステップです。
特に大手企業や上場企業の場合、取引口座開設の審査は大変厳しいものになっています。
私のもとに寄せられるご相談も、大手企業の審査に通らないケースが多いですね。
一度開設を断られたり、代理店経由になってしまうと、直接の口座開設に切り替えてもらうのは大変です。できることなら、最初の段階でスムーズに口座を開設してもらえるように、しっかり対策をしておくことを強くおすすめします。
もし本記事でご紹介した「断られやすい特徴」に当てはまる場合は、普段から地道に改善を進めつつ、自社の強みをアピールしていくことも大切にしてください。その積み重ねが、相手に前向きに検討してもらう力になります。
貴社が良い取引を獲得し、ますます事業を発展させていかれることを心から願っています。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
会社信用ドットコム代表 佐藤絵梨子
「貴社が信用調査でどう評価されるか」「調査員の質問にどう答えれば高評価になるか」元調査員が専門的な観点からアドバイスします。






