このような経営者の方に役立つ情報をお届けします。
この記事を書いている私は、企業信用調査会社(株)東京商工リサーチで延べ7,000社以上を調査した元・調査員です。
これまでの取材調査で、多くの経営者の方の決算報告を見てきました。
決算報告は単なる数字の説明ではありません。
それは、あなたの会社の信用力と将来性を示すチャンスです。
本記事では、決算報告を通じて企業の信用力を高める具体的な方法と、実践的なポイントをお伝えしています。
適切な決算報告ができれば、取引先との関係強化、融資の獲得、そして企業価値の向上も期待できますよ。
ぜひ最後までお読みください。
企業評価を左右する決算報告必須の5大シーン
決算報告は、ビジネスの様々な重要な場面で必要とされます。
次に紹介する5つの場面では、決算報告の説明の仕方によって、会社の評価や将来が大きく変わる可能性があります。確認しておきましょう。
決算報告必須の5大シーン
- 株主総会:株主に経営状況を報告し、信頼を深める場
- 金融機関への報告:財務の健全性をアピールして資金支援を勝ち取る場
- 取引先との商談:取引で相手から会社の経営状況を確認される場
- 投資家向け説明会:上場企業が業績と将来性を投資家に説明する場
- 補助金・助成金の申請:公的機関に会社の健全性を示して支援を求める場
このような場面で求められるのは、単なる数字の説明ではありません。
あなたの会社の強みや将来性を、決算数字を通じて説得力をもって伝える必要があります。
信用力が下がるNGな決算報告例と改善策
適切な決算報告ができないと、会社の信用を失う可能性があります。
以下に代表的なNG例と、その改善方法をご紹介します。
どれも私が調査取材で実際によく言われ、高く評価できなかった言葉です。「うちの会社も似たようなことをしていないかな?」とチェックしてみてくださいね。
NG例1:曖昧な表現で責任転嫁
「景気が悪かったので売上も減ってしまいました」
このような言い方では、具体的に何が起きたのか、会社としてどう対応したのかが伝わりません。
外部の状況と自社の取り組みを具体的に説明しましょう。
例:「○○業界全体の需要が落ち込む中、新しいお客様の開拓に力を入れた結果、売上減少を△△%に抑えることができました」
NG例2:根拠のない抽象的な説明
「営業が頑張ったから業績が伸びたんですよ」
「頑張った」だけでは、どのような取り組みをしたのか、どれくらい成果があったのかが分かりません。
具体的な行動と数字で説明しましょう。 例えば以下の例のように説明するとよいですね。
例:「新しいお客様を開拓するチームを作り、お客様訪問の回数を去年の1.5倍に増やしました。その結果、新しいお客様からの注文が30%増えました」
NG例3:言い訳がましい一般論
「中小企業は製品が1つ多く売れるだけでも、売上が大きく変わるものですからね」
おっしゃることはよくわかります。ですが、このような一般論では、自社の特徴や努力が全く伝わりません。
具体的な商品名と数字を使って説明しましょう。
例:「当社の主力商品Aの売れ行きが好調で、去年より20%多く売れました。これにより、会社全体の売上が10%伸びました。この成果は、新しい販売先の開拓によるものです」
このように、決算報告では具体的な数字と裏付けが大切です。
単に結果を伝えるだけでなく、その背景にある会社の戦略や努力も説明することで、聞き手の理解と信頼を深めることができます。
取引先や金融機関を納得させる売上増減の7つの説明ポイント
売上の増減理由をうまく説明するには、次の7つのポイントを意識するとよいでしょう。
売上増減の7つの説明ポイント
- サービス・製品別の分析
- 主要取引先の動向
- 価格戦略の影響
- 新規事業・製品の貢献
- 取引先の変動
- 特需・スポット案件の影響
- 期ズレの影響
1つずつ解説します。
サービス・製品別の分析
売上増減の説明ポイントの1つ目は、サービスや商品ごとの売上状況です。
会社のどの部分が好調で、どの部分が苦戦しているのかをはっきりさせると、会社の全体像が相手に伝わります。
それぞれの部門がどれくらい貢献しているかを数字で示すと、さらに分かりやすくなりますよ。
例:「建設部門の売上は去年より10%増え、不動産部門は5%減りました。全体では3%の増収となりました」
主要取引先の動向
売上増減の説明ポイントの2つ目は、主要な取引先の状況です。
とくに大きなお客様の動きは、会社全体の売上に大きな影響を与えます。
特定のお客様にどれくらい頼っているか、そのお客様の注文の増減が全体にどう響くかを説明するとよいでしょう。
例:「最大のお客様であるA社からの注文が20%増え、全体の売上を押し上げました」
価格戦略の影響
売上増減の説明ポイントの3つ目は、価格の変更が与えた影響です。
値段を変えたことで、売上や利益がどう変わったかを説明しましょう。
値段を変えて売れ行きがどうなったかを具体的に示すと、戦略の成果を明確に伝えることができます。
例:「主力商品の価格を5%上げましたが、売れる数は変わらず、結果として売上が増えました」
新規事業・製品の貢献
売上増減の説明ポイントの4つ目は、新しく始めた事業や新商品の影響です。
新しい取り組みがどれくらい売上に貢献したかを伝えると、会社の成長力をアピールできます。
新事業がどのくらいのペースで伸びているか、全体の中でどれくらいの割合を占めるようになったかを説明するとよいでしょう。
例:「新しく始めたコンサルティング事業が軌道に乗り、今では全体の売上の5%を占めるまでになりました」
取引先の変動
売上増減の説明ポイントの5つ目は、取引先の変化です。
新しいお客様を獲得したり、既存のお客様との取引が変わったりすることで、売上がどう変わったかを説明します。
新しいお客様を開拓する努力と、その結果をはっきりとした数字で示すことが大切です。
例:「新しく取引を始めたB社との取引が本格的になり、今では売上の10%を占めるまでになりました」
特需・スポット案件の影響
売上増減の説明ポイントの6つ目は、一時的な大きな注文の影響です。
普段はない大きな注文が入ると、売上が大きく変わります。
このような特別な案件がどのように影響したかを説明し、通常の営業状況との違いを明らかにすることが大切です。
例:「3年に一度の大型設備更新の注文があり、今期の売上を押し上げました」
期ズレの影響
売上増減の説明ポイントの7つ目は、決算期をまたぐ案件の影響です。
通常は今期に入るはずだった注文が次の期にずれ込んだり、その逆があったりすると、売上に影響します。
このような期ずれの影響を説明することで、より正確な事業の状況を伝えることができます。
例:「例年3月に入る大きな注文が4月にずれ込んだため、今期の売上は減少しましたが、来期にはその分が上乗せされる見込みです」
以上のポイントを意識して説明すると、売上の増減理由をより具体的に、説得力を持って伝えることができます。
単に数字を並べるだけでなく、その背景にある会社の戦略や市場の動きについても触れると、あなたの会社をより深く理解してもらうことができるでしょう。
決算報告で会社の信用を高める3つの報告戦略
決算報告で会社の信用を高めるための具体的な方法を、これから3つご紹介します。
どれも実践しやすいテクニックです。ぜひ参考にして、次の決算報告に活かしてくださいね。
数字に命を吹き込む『物語形式』の説明
数値を単に並べて説明するのではなく、その背景にある経緯や取り組みを物語のように説明すると、聞き手の印象に残る報告ができます。
例えば、「新製品開発に2年間取り組み、今期ようやく市場投入できました。その結果、売上が15%増加しました」
というように、数字の裏側にある努力や戦略を具体的に伝えましょう。
数字を単なる結果ではなく、会社の成長の証として印象づけることができます。
一目で理解できるビジュアル資料の活用
グラフや図表を使って、数字の変化や内訳を視覚的に示すことで、相手により理解してもらいやすくなります。
とくに、売上の内訳や利益率の変動を棒グラフや円グラフで表すと効果的です。
視覚的な情報は、複雑なデータを簡単に伝えるための強力な手段になります。
信頼を深める質疑応答の準備
決算報告の後には、質問を受ける時間があります。この時間は、会社のことをより深く理解してもらうチャンスです。
どんな質問が来そうか、あらかじめ考えて答えを用意しておきましょう。
例えば、「これからどんな設備投資をする予定ですか?」や「主なお客様の状況はどうですか?」
といった質問が予想されます。
しっかり準備して自信を持って答えると、会社の将来性や安定性をアピールでき、信頼感も高まります。
決算報告は、取引先や銀行など、会社に関わる様々な人たちに、会社の価値をしっかり伝え、信頼してもらうチャンスです。
単に数字を並べるだけでなく、会社の良いところや将来の可能性を効果的に伝えることを心がけてくださいね。
企業価値を最大化する決算報告の情報開示テクニック
情報を適切に開示すれば、企業の透明性を高め、信頼を勝ち取ることができます。
次にご紹介するテクニックを使って、決算報告を通じて企業価値をさらに高めましょう!
比較情報で強みを際立たせる
情報開示テクニックの1つ目は、比較情報を伝えることです。
前年同期だけでなく、業界平均や競合他社との比較データを示しましょう。自社の市場での立ち位置を明確に伝えることができます。
数字以外の情報活用
情報開示テクニックの2つ目は、数字以外で会社の価値を伝えることです。
ESG(環境・社会・ガバナンス)活動や人材育成の取り組みなど、財務諸表に現れない情報も積極的に公開しましょう。企業の価値を全体的に高めることができます。
心をつかむ未来図開示
情報開示テクニックの3つ目は、相手の心をつかむ将来予測情報を戦略的に開示することです。
中期経営計画や来期の見通しといった将来の情報を開示しましょう。企業の成長力や安定性を投資家にアピールできます。
リスク情報の誠実な開示
情報開示テクニックの4つ目は、リスク情報を誠実に開示することです。
予測されるリスクやそれに対する対策をしっかり説明しましょう。経営の信頼性と先見性を伝えることができます。
企業を取り巻く環境が急速に変化していますので、リスク対策をしているかどうかは近年とても重視されていますね。
デジタル技術の活用
情報開示テクニックの5つ目は、デジタル技術を活用することです。
オンラインでの決算説明会やIR動画の配信など、デジタルツールを活用しましょう。
情報発信の範囲を広げ、多くの人にあなたの会社のよさを伝える工夫が必要です。
決算報告をただの義務ではなく、企業価値を高めるための効果的なコミュニケーションと考えて、あなたの会社に最適な方法で伝えてくださいね。
【元・調査員の体験談】決算報告上達で会社が変わる瞬間
私が調査員として働いていた頃の印象深い体験をお話しします。
毎年同じ会社を担当する中で、ある一人社長の変化に驚かされました。最初は質問にうまく答えられなかった社長が、年を追うごとに説明が上手くなっていったのです。
その社長は、銀行や取引先からの質問に答えられず困った経験から、よく聞かれる質問とその答えを事前に用意するようになりました。
「サトウさんからもこれを聞かれると思ったんです」と、私の質問に対しても準備した回答をしてくれるようになりました。
毎年の取材で、社長の回答の精度が上がり、質問にスムーズに答えられるようになっていきました。最終的には、会社の概要をまとめた1枚紙の資料まで用意してくれるようになったのです。
「少しずつ回答の質を上げていくことで、会社への信頼感が大きく向上する」
私はそう実感しました。
さらに、このプロセスを通じて、社長自身が自社の状況を見直す機会を得て、業績の改善にもつながっていったのです。
みなさまも、決算報告の準備を通じて自社を見つめ直し、改善点を見出すことができます。
そして、その過程で説明力を磨くことで、取引先や金融機関からの信頼を高めることができます。
この社長のように、一歩一歩着実に進めば、必ず良い結果につながります。
ぜひ、決算報告を通じて自社の成長と信頼獲得の好循環を生み出してくださいね。
決算報告の伝え方で企業の信頼感と未来は決まる
繰り返しになりますが、決算報告は、単に過去の業績を報告するだけの場ではありません。
それは、あなたの会社の強みを示し、将来の可能性を伝え、そして信頼を獲得する絶好の機会です。
本記事で紹介した戦略やテクニックをつかって、決算報告を通じて企業の信用力を高めてくださいね。
具体的で説得力のある説明、効果的なビジュアル資料の使用、そして誠実な情報開示が、あなたの会社の評価を大きく向上させる鍵になります。
決算報告の達人になることで、取引先との関係強化、融資の獲得、そして企業価値の向上という具体的な成果につなげていくことができるでしょう。
みなさまが決算報告を通じて自社の強みと将来性を効果的に伝え、信用を勝ち取っていかれることを心から願っています。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。