2025年に募集がスタートした経済産業省の大型補助金「新事業進出補助金」が注目を集めていますね。
コロナ禍で始まった「事業再構築補助金」の流れを引き継いでいて、新しい事業を始める企業を支援してくれる補助金ですね。
魅力的な補助金ですが、「審査は厳しい?」「うちは審査に通る?」というご心配やご相談も多く寄せられています。
そこで本記事では、新事業進出補助金の審査項目や難易度をプロの視点でお伝えします。
この記事を書いている私のプロフィール
佐藤絵梨子(さとうえりこ)
会社信用ドットコム代表・会社信用クリエイター
世界最大の企業情報を保有する (株)東京商工リサーチに入社後、個人から売上1兆円企業まで10年間で延べ7,000社以上を調査。商業登記簿から会社の信用度を見抜くほどになり、全国1,000人以上の調査員中、営業成績1位獲得の実績を誇る。2017年同社を退職。現在は大手企業との取引実現から銀行融資・補助金獲得まで支援するサービスを展開。小さな企業の救世主として期待されている。
*経済産業省認定 経営革新等支援機関(認定支援機関ID:107713006411)
『審査』を知らずして補助金採択はない
「専門家でもあるまいし、審査のことを深く理解していられない」と思われるかもしれませんが、補助金ではその考えは危険です。
補助金の申請支援をさせていただいていると、「審査員の求めること」と「申請者が行っていること」がズレているケースをよく見かけるからです。
事業計画書に自分の書きたいことばかり書いてしまって、審査員が求める内容を書けていない。これはよくあるズレです。
新事業進出補助金の場合だと、申請者は「新事業」の対象になると思っていても、審査する側が定めた「新事業」には当てはまらないケースをよく見かけます。
審査員が求めるものを知らないまま申請を進めると、このようなズレが生まれ、審査に通らなくなってしまいます。
まずは審査内容を理解する大切ですので、1つずつ確認していきましょう。
書類審査と口頭審査の2段階審査
まず最初に確認しておきたいのが、採択までにどのような審査があるのかです。
新事業進出補助金には、書類審査と口頭審査の2つの審査があります。
書類審査はすべての申請者が対象です。
口頭審査は一定の審査基準を満たした事業者の中から、必要に応じて行われます。1事業者あたり約15分、Zoom等を使用したオンライン面談形式です。
書面でも、口頭でも、計画を説明できるようにしておく必要があります。
書類審査の7つの審査項目
それでは、新事業進出補助金の『書類審査』と『口頭審査』それぞれの審査項目を確認してみましょう。
書類審査の審査項目は以下の7つです。
書類審査の7つの審査項目
- 補助対象事業としての適格性
- 新規事業の新市場性・高付加価値性
- 新規事業の有望度
- 事業の実現可能性
- 公的補助の必要性
- 政策面
- 大規模な賃上げ計画の妥当性
1つずつざっと審査の視点を確認してみてください(※全部読むのが大変な方は、緑の囲みの中の私のコメントだけでも読んでみてくださいね)。
補助対象事業としての適格性
- 本公募要領に記載する補助対象者、補助対象事業の要件、補助対象事業等を満たすか
- 補助事業により高い付加価値の創出や賃上げを実現する目標値が設定されており、かつその目標値の実現可能性が高い事業計画となっているか
※付加価値額要件及び賃上げ要件において、基準値を上回る高い目標値が設定されている場合、高さの度合いと実現可能性を考慮して審査される
「補助金の対象か」「達成すべき条件をクリアする計画内容か」「その計画の実現可能性は高いのか」が審査されます。
新規事業の新市場性・高付加価値性
- 補助事業で取り組む新規事業により製造又は提供(以下「製造等」という。)する、製品又は商品若しくはサービス(以下「新製品等」という。)のジャンル・分野の、社会における一般的な普及度や認知度が低いものであるか
※補助事業で取り組む事業の内容が、新事業進出指針に基づく当該事業者にとっての新規事業であることを前提に、社会においても一定程度新規性を有する(一般的な普及度や認知度が低い)ものであることが求められる
■新製品等の属するジャンル・分野は適切に区分されているか
■新製品等の属するジャンル・分野の社会における一般的な普及度や認知度が低いものであるか。それらを裏付ける客観的なデータ・統計等が示されているか - 同一のジャンル・分野の中で、当該新製品等が、高水準の高付加価値化・高価格化を図るものであるか
■新製品等のジャンル・分野における一般的な付加価値や相場価格が調査・分析されているか
■新製品等のジャンル・分野における一般的な付加価値や相場価格と比較して、自社が製造等する新製品等が、高水準の高付加価値化・高価格化を図るものであるか。高付加価値化・高価格化の源泉となる価値・強みの分析がなされており、それが妥当なものであるか
新規事業の新市場性・高付加価値性は、とくに重要な項目です。よく確認しましょう。
新規事業の有望度
- 補助事業で取り組む新規事業が、自社がアプローチ可能な範囲の中で、継続的に売上・利益を確保できるだけの市場規模を有しているか。成長が見込まれる市場か
- 補助事業で取り組む新規事業が、自社にとって参入可能な事業であるか
■免許・許認可等の制度的な参入障壁をクリアできるか
■ビジネスモデル上調達先の変更が起こりにくい事業ではないか - 競合分析を実施した上で、顧客ニーズを基に、競合他社と比較して、自社に明確な優位性を確立する差別化が可能か
■代替製品・サービスを含め、競合は網羅的に調査されているか
■比較する競合は適切に取捨選択できているか
■顧客が商品やサービスの購入を決める際に重視する要素や判断基準は明らかか
■自社が参入して、顧客が商品やサービスの購入を決める際に重視する要素や判断基準を充足できるか
■自社の優位性が、他者に容易に模倣可能なもの(導入する機械装置そのもの、営業時間等)となっていないか
「新しい事業が将来にわたって売上や利益を確保できるのか」「本当にその新しい市場に参入できるのか」「参入後に同業他社に勝てるのか」が見られますね。
事業の実現可能性
- 事業化に向けて、中長期での補助事業の課題を検証できているか。また、事業化に至るまでの遂行方法、スケジュールや課題の解決方法が明確かつ妥当か
- 最近の財務状況等から、補助事業を適切に遂行できると期待できるか。金融機関等からの十分な資金の調達が見込めるか
※複数の事業者が連携して申請する場合は連携体各者の財務状況等も考慮される - 補助事業を適切に遂行し得る体制(人材、事務処理能力等)を確保出来ているか。第三者に過度に依存している事業ではないか。過度な多角化を行っているなど経営資源の確保が困難な状態となっていないか
「新しい事業を実施するための体制やスケジュール」「資金調達などの計画が妥当か」がチェックされます。
公的補助の必要性
- 川上・川下への経済波及効果が大きい事業や社会的インフラを担う事業、新たな雇用を生み出す事業など、国が補助する積極的な理由がある事業はより高く評価
- 補助事業として費用対効果(補助金の投入額に対して増額が想定される付加価値額の規模、生産性の向上、その実現性、事業の継続可能性等)が高いか
- 先端的なデジタル技術の活用、新しいビジネスモデルの構築等を通じて、地域やサプライチェーンのイノベーションに貢献し得る事業か
- 国からの補助がなくとも、自社単独で容易に事業を実施できるものではないか
「補助金を支給する価値がある事業か」「補助金がなくても自力で十分できる事業ではないか」が確認されます。
政策面
- 経済社会の変化(関税による各産業への影響等を含む)に伴い、今後より市場の成長や生産性の向上が見込まれる分野に進出することを通じて、日本経済の構造転換を促すことに資するか
- 先端的なデジタル技術の活用、低炭素技術の活用、経済社会にとって特に重要な技術の活用、新しいビジネスモデルの構築等を通じて、我が国の経済成長・イノベーションを牽引し得るか
- ニッチ分野において、適切なマーケティング、独自性の高い製品・サービス開発、厳格な品質管理などにより差別化を行い、グローバル市場でもトップの地位を築く潜在性を有しているか
- 地域の特性を活かして高い付加価値を創出し、地域の事業者等に対する経済的波及効果を及ぼすことにより、大規模な雇用の創出や地域の経済成長(大規模災害からの復興等を含む)を牽引する事業となることが期待できるか
※ 以下に選定されている事業者や承認を受けた計画がある事業者は審査で考慮される
・地域未来牽引企業
・地域未来投資促進法に基づく地域経済牽引事業計画
「新しい事業が社会や経済、地域の課題解決・成長に貢献するものか」が評価されます。
大規模な賃上げ計画の妥当性
- 大規模な賃上げの取組内容が具体的に示されており、その記載内容や算出根拠が妥当なものとなっているか
- 一時的な賃上げの計画となっておらず、将来にわたり、継続的に利益の増加等を人件費に充当しているか
賃上げの特例適用を希望する事業者のみ、審査される項目です。
口頭審査の審査項目
口頭審査の対象になった場合には、以下の項目が審査されます。
口頭審査の審査項目
- 事業の適格性
- 優位性
- 実現可能性
- 継続可能性 等
基本的には、書類審査と同様の視点で見られますが、審査員と面と向かって話しますので、書類審査よりも内容は深く問われます。
口頭でもわかりやすく、そして詳細に伝えられるように準備が必要です。
やればもらえるプラスαの加点項目
新事業進出補助金では、以下の9項目が加点対象になっています。
新事業進出補助金の加点項目
- パートナーシップ構築宣言加点
「パートナーシップ構築宣言」ポータルサイトにおいて宣言を公表している事業者 - くるみん加点
次世代法に基づく認定(トライくるみん、くるみん又はプラチナくるみんのいずれかの定)を受けた事業者 - えるぼし加点
「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(平成 27 年法律第 64 号)」に基づく認定(えるぼし1~3段階又はプラチナえるぼしのいずれかの認定)を受けている事業者 - アトツギ甲子園加点
アトツギ甲子園のピッチ大会に出場した事業者 - 健康経営優良法人加点
健康経営優良法人 2025 に認定されている事業者 - 技術情報管理認証制度加点
技術情報管理認証制度の認証を取得している事業者 - 成長加速化マッチングサービス加点
成長加速マッチングサービスにおいて会員登録を行い、挑戦課題を登録している事業者 - 再生事業者加点中小企業活性化協議会等から支援を受けており、以下のいずれかに該当している事業者
・再生計画等を「策定中」の者
・再生計画等を「策定済」かつ応募締切日から遡って3年以内に再生計画等が成立等した者 - 特定事業者加点
「2.補助対象者(3)特定事業者の一部」に該当する事業者
「加点項目」とは、プラスでもらえる点数のことです。該当する取り組みをしていれば、点数がプラスされ、採択されやすくなります。
取り組めばもらえる加点ですので、可能な限り取り組みましょう。とくに①②③⑦は取り組みやすいと思います。
減点項目に要注意
新事業進出補助金には以下の3つの減点項目があります。
新事業進出補助金の減点項目
- 他の補助金で加点要件を守れなかった場合
- 類似テーマの申請が集中し、市場分析の妥当性が薄れた場合
- 過去の補助事業の成果が出ていない場合
1つずつ確認しておきましょう。
他の補助金で加点要件を守れなかった場合
新事業進出補助金とは別の補助金で、賃上げなどの加点を受けて採択されたにもかかわらず、その条件を達成できなかった場合は、正当な理由がない限り減点されます。
【対象になる補助金】 ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業(ものづくり補助金)、サービス等生産性向上 IT 導入支援事業(IT 導入補助金)、小規模事業者持続的発展支援事業(持続化補助金)、事業承継・M&A 支援事業(事業承継・M&A 補助金)、中小企業成長加速化補助金(成長加速化補助金)、事業再構築補助金、中小企業省力化投資補助事業(省力化投資補助金)、成長型中小企業等研究開発支援事業(GoTech 事業)(令和7年4月時点)
類似テーマの申請が集中し、市場分析の妥当性が薄れた場合
多くの企業で同時期に類似テーマ・設備の申請が集中した場合、『一時的流行による過剰投資』と見なされ、計画書の市場分析通りの実施が困難と判断され減点対象になります。
過去の補助事業の成果が出ていない場合
過去に別の補助金を受給している場合、その補助金計画の最新の進捗報告(事業化状況報告)で、事業化の達成度が3段階以下であれば減点対象になります。
【対象になる補助金】 ・新事業進出補助金
・事業再構築補助金
・ものづくり補助金
過去に受け取った補助金の、その後の計画進捗が思わしくない事業者様は多いですね。ほかの審査項目で巻き返す、ほかの補助金申請も検討するなどの対策が必要です。
意外と見逃しがちな審査の視点
ここまで、審査項目をお伝えしてきました。
実は、補助金のご相談をいただいている中で、多くの方が見逃している審査の視点がもう1つあるので、お伝えします。
書類審査の審査項目でも、口頭審査の審査項目でも登場した「事業の適格性」についてです。
この中で、新事業進出補助金の対象になる「新しい事業」の定義を勘違いしている方が、いらっしゃいます。
審査する側が考える「新しい事業像」に当てはまらない場合は、審査に通りません。そもそも、それは新事業進出補助金の対象ではないからです。
補助金を申請するなら、まず1番に確認すべきです。以下の記事でも解説しているので、詳しく確認してください。
◆その『新規事業』は新事業進出補助金の対象?応募資格を見極める3つの要件チェックポイント
新企業進出補助金の難易度
新事業進出補助金では、「審査は難しい?」というご質問をよくいただくので、私なりの考えをお伝えします。
実は、新事業進出補助金の概要が発表された初期段階で、中小企業基盤整備機構が公開した「新事業進出補助金システム要件定義書(案)」という資料に、次のような記載がありました。
公募回ごとの事業者数(想定)
・応募事業者:約10,000者/公募回
・採択(交付)事業者:約1,500者/公募回
この想定をもとにすると、採択率は約15%という低水準になります。
これだけ見ると、新事業進出補助金の審査は厳しいものだと予想できますね。
新事業進出補助金の”前身”である「事業再構築補助金」も、直近の採択率は20%~30%台なかばで、審査は厳しいものでした。
参考:事業再構築補助金の採択率(直近)
第11回:26.4%
第12回:26.5%
第13回:35.5%
さらに、個人的に注目しているのは、新事業進出補助金の審査項目が、事業再構築補助金と比べて、わかりやすくなっていることです。
これは裏を返せば、審査する側が評価基準を明確に決めて、より厳格に判定する準備を整えているということ。「わかりやすい基準=甘くなる」ではなく、むしろ明確な基準のもとで、厳しく評価される可能性が高いと見ています。
ということですので、油断せず、審査ポイントを押さえて、万全の準備で申請に臨むことをおすすめします。
企業審査のプロが考える補助金審査の突破口
「うちは採択されますか?」
「どうしたら審査に通るでしょうか?」
補助金の審査突破をサポートしていると、このようなご相談がたくさん寄せられます。
実際に採択される事業者様を見ていると、やはりその補助金の審査の視点を理解している方は強いです。
とくに新事業進出補助金の場合は、本当にこれから行う事業が「新事業」に当てはまるか、という点はよく確認してください。
既存事業の延長でしかないもの、十分練られた戦略がないと思われてしまうような取り組みは、新事業の対象外です。
審査で見られるポイントがわかっていれば、自社の状況や計画内容に最適な形で申請準備を進めることもできます。
事業計画書の書き方ひとつを取っても、審査突破のために書くべき内容やアピールすべき項目は、他社と同じにはなりません。
単なる成功事例の当てはめではなく、「どうすれば会社や計画が審査で高く評価されるか」を意識して準備を進めていくことが必要です。
そのために、まずは補助金の審査の視点を、もう一度確認してみてくださいね。
皆さまが補助金に採択され、事業をさらに成長させていかれることを心から願っています。
本日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
会社信用ドットコム代表 佐藤絵梨子
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