このような疑問にお応えします。
経営者の方との会話では、会社の創業時のことが話題に上ることが多いのですが、みなさまは創業から現在までの沿革をどのようにお相手に伝えていますか?
会社パンフレット、ホームページ、商談、商業登記など、会社の沿革を載せたり、伝える場所はたくさんありますよね。
この会社の沿革、侮るなかれです。
沿革を伝えるときに手を抜くと、会社への信頼を失ったり、本当はもっと信頼してもらえるはずなのに、大して信頼してもらえなくなる可能性があります。
そこで本記事では、信用力を120%アップさせる会社沿革の書き方を徹底解説しました。
この記事を書いている私は、企業信用調査会社の(株)東京商工リサーチで延べ7,000社以上を調査した元・調査員です。
信用調査員として多くの企業を取材する中で、実にさまざまな会社沿革を見てきました。
その経験から言えるのは、優れた企業は会社沿革の伝え方が非常に効果的だということ。
少し手間をかけたり、一言プラスするだけで、みなさまの会社の沿革をより信頼感のあるものにすることができますよ。
ぜひ最後までお読みください。
会社沿革とは?その重要性と基本的な書き方
会社沿革とは、企業がこれまで歩んできた歴史を順番に示したものです。
単なる出来事の羅列ではなく、会社の成長の軌跡や価値観、強みを伝える重要なコミュニケーションツールです。
基本的な書き方としては、以下の要素を含めることが大切です。
- 会社設立日
- 主要な事業展開や製品・サービスの開始時期
- 重要な組織変更や経営陣の交代
- 重要な成果や受賞歴
以下の例は、基本的なポイントを押さえた効果的な沿革の書き方です。参考にしてください。
基本の記載例
2007年4月資本金1,000万円で株式会社〇〇設立
2010年9月主力製品「△△」の販売開始
2015年6月東京支社開設
2018年3月経済産業省「はばたく中小企業300社」に選出
会社沿革の活用シーンと目的
会社沿革はさまざまな場面で活用できます。
大切なのは、それぞれの目的に応じて内容や強調点を調整することです。
活用シーンの例をお伝えしますので参考にしてください。
沿革を活用するシーンの例
- ホームページやパンフレット:会社の歴史や成長を示し、信頼性を高める
- 融資申請時の事業計画書:会社の安定性や成長性をアピールする
- 補助金申請書:事業の継続性や社会貢献度を示す
- 取引先への会社紹介資料:自社の強みや業界での位置づけを伝える
信頼される会社沿革の7つのポイント
それでは、信頼される会社沿革の7つのポイントをお伝えします。
信頼される会社沿革の7つのポイント
- 設立経緯を詳しく記載する
- 自社の強みを強調する
- 成長の軌跡を示す
- 社会貢献活動や受賞歴を含める
- 数字を活用して具体的に伝える
- 業界や社会の変化との関連性を示す
- 将来のビジョンや目標を含める
これらのポイントを押さえることで、会社の魅力を最大限に引き出す沿革が作れるはずです。
1つずつ解説します。
設立経緯を詳しく記載する
信頼される会社沿革のポイントの1つ目は、設立経緯を詳しく記載することです。
創業者の思いや事業を始めた目的を明確に伝えることで、会社の理念や価値観を示すことができます。
企業の価値観や目指す方向性が伝わり、取引先や顧客からの共感が生まれやすくなりますね。
困難を乗り越えた創業ストーリーは、企業の強さや粘り強さが伝わり、長期的な信頼関係構築につながります。
設立経緯の記載例
2005年4月創業者の信用高夫が、「高品質な日本製品を世界に届けたい」という思いから、株式会社〇〇を設立。資本金500万円にて事業開始。
2005年6月創業者の信用高夫が、リーマンショックによる失業を機に、「誰もが安心して働ける社会を」という想いで当社を設立。資本金わずか100万円からのスタートながら、困難を乗り越える強い決意と周囲の支援を得て事業を軌道に乗せる。
自社の強みを強調する
信頼される会社沿革のポイントの2つ目は、自社の強みを強調することです。
製品開発や技術革新、顧客基盤の拡大など、自社の強みとなる出来事を重点的に記載します。
強みを伝えると、独自性や競争力が明確になります。
具体的に伝えることで、会社の存在価値や市場での優位性が伝わりますので、取引先や顧客に安心感を持ってもらえますね。
具体的な数値を入れておくと強みをより強調できます。
強みの記載例
2008年7月独自開発の高効率製造プロセス「□□方式」を確立
2010年2月国内シェア30%を突破、業界2位に躍進
成長の軌跡を示す
信頼される会社沿革のポイントの3つ目は、成長の軌跡を示すことです。
売上高の推移や従業員数の増加、関連会社の設立・展開、事業拡大の様子を具体的に伝えることで、会社の成長が可視化され、信頼感アップにつながります。
成長の軌跡の記載例
2012年年間売上高10億円達成
2015年従業員数100名突破
2018年海外3か国(アメリカ、中国、ベトナム)に現地法人設立
社会貢献活動や受賞歴を含める
信頼される会社沿革のポイントの4つ目は、社会貢献活動や受賞歴を伝えることです。
CSR活動や業界での評価を伝えることで、会社の価値観や能力を証明することができます。
社会や業界からの信頼を獲得していることも伝わりますし、企業イメージが向上しますね。
会社の社会的価値や信頼性を高めることができます。
社会貢献活動や受賞歴の記載例
2009年9月地域の小学生向け「ものづくり教室」を開始
2015年10月「グッドデザイン賞」受賞
数字を活用して具体的に伝える
信頼される会社沿革のポイントの5つ目は、数字を活用して具体的に伝えることです。
具体的な数字を見せることで、成果や成長をより明確に示すことができます。
数字を公開することで、経営の透明性もアピールできますし、相手の印象にも残りやすいです。
数字を具体的に伝える記載例
2014年主力製品の累計販売台数が10万台を突破
2017年特許取得件数が50件に到達
業界や社会の変化との関連性を示す
信頼される会社沿革のポイントの6つ目は、業界や社会の変化との関連性を示すことです。
自社の歴史を業界トレンドや社会の変化と関連付けることで、環境への適応力や先見性をアピールできます。
業歴の長い会社の信用力アップでとくに効果を発揮します。
業界や社会の変化との関連性の記載例
2011年3月東日本大震災を受け、災害対策型製品の開発に着手
2020年4月コロナ禍におけるリモートワーク需要に応え、オンラインサポートサービスを開始
将来のビジョンや目標を含める
信頼される会社沿革のポイントの7つ目は、将来ビジョンや目標を含めることです。
沿革の最後に今後の展望や目標を伝えることで、成長志向や将来性をアピールします。
長期的な視野をもって経営を行っていることや、成長意欲や誠実さも伝えることができますね。
将来ビジョンや目標の記載例
2025年創業20周年を迎え、「世界シェア10%」の達成を目指す
以上、信頼される会社沿革のポイントを7つご紹介しました。
要注意!会社沿革作成時の落とし穴と対処法
会社沿革を作成する時には、いくつかの注意点があります。
ここでは、よくある落とし穴とその対処法をお伝えします。これらの落とし穴を避けることで、より信頼感のある、魅力的な沿革が作れるはずですよ。
変更が多い場合の対処法
頻繁な変更は、不安定さを感じさせる可能性があります。
一貫性のなさや、経営陣の判断力に対する不信感、長期的な計画性への疑問を抱かせる危険性があります。
本店移転や代表者変更など、変更が頻繁にある場合は、その理由や背景を簡潔に説明することで、不安や疑念を払拭しておきましょう。
変更が多い場合、理由や背景を含めた記載例
2018年5月事業拡大に伴い、本社を東京都渋谷区に移転
ネガティブな出来事の扱い方
経営危機や不祥事などのネガティブな出来事は、経営能力への不信感や会社の不安定さを感じさせる危険性があります。
その後の対応や改善策とセットで記載することで、誠実さと改善力をアピールし、信頼回復に努めましょう。
ネガティブな情報を隠すのはNGです。相手から隠ぺい体質という不信感を持たれますので、信頼回復という視点を持った対策をしておく方がよいです。
ネガティブな出来事を信頼回復する記載例
2013年8月製品不具合による大規模リコールを実施
2014年1月品質管理体制を刷新し、第三者機関による監査制度を導入
適切な情報量と記載期間
会社沿革は、読みやすさと情報の充実度のバランスが重要です。
一般的には、創業から現在まで5年ごとに1〜2項目程度の主要な出来事を記載するのが目安です。
ただし、会社の成長段階や業界特性に応じて調整も必要です。
記載項目は、会社の成長や変革を象徴する出来事、主要製品・サービスの開始、目立つ受賞歴などを優先し、さまざまな側面からバランスよく選択しましょう。
読み手が一目で会社の歴史と成長の軌跡を理解できるよう工夫することが大切です。
読み手の心をつかむ!相手別カスタマイズテクニック
読み手によって興味関心が異なるため、会社沿革はそれぞれの視点に立ってカスタマイズすると効果的です。
ここでは、主な読み手別として「取引先向け」「銀行・金融機関向け」「求職者向け」のカスタマイズ方法をご紹介します。
まず初めにそれぞれのカスタマイズのポイントをお伝えします。
読み手別カスタマイズのポイント
- 取引先向け:業界での実績や主要取引先との関係強化の歴史を強調
- 銀行・金融機関向け:財務状況の改善や資金調達の実績を詳しく記載
- 求職者向け:従業員に関する施策や職場環境の改善に関する項目を充実させる
1つずつ解説します。
取引先に好印象を与える沿革の書き方
取引先は、あなたの会社の信頼感、安定性、さらに今後の発展にも関心を持っています。
以下のポイントを強調しておきましょう。
- 業界での地位や実績
例:「2010年、業界シェア30%を達成。以降、5年連続でトップシェアを維持」
- 主要取引先との関係強化の歴史
例:「2013年、大手電機メーカーA社との取引開始。3年後には同社の主要仕入先に認定」
- 品質管理や納期遵守の取り組み
例:「2015年、ISO9001取得。以来、不良品率0.1%以下を継続維持」
- 技術力や革新性
例:「2020年、AI技術を活用した新製品で特許取得。業界誌で「年間イノベーション賞」を受賞」
銀行マンを唸らせる財務アピールのコツ
金融機関は、あなたの会社の財務健全性と成長性に注目します。
以下の要素を盛り込んでおきましょう。
- 売上高や利益の成長推移
例:「創業以来10年間、年平均成長率10%を達成。2020年度には売上高15億円を突破」
- 財務状況の改善実績
例:「2013年、自己資本比率30%達成。2020年には50%まで改善」
- 資金調達の実績
例:「2012年、メガバンクからの融資で大型設備投資を実施。翌年には生産性が30%向上」
- 経営の安定性を示す指標
例:「2015年以降、7年連続で黒字経営を達成。営業利益率は業界平均の2倍を維持」
求職者の目を引く!魅力的な職場アピール術
求職者は、会社の成長性だけでなく、働きやすさや自己成長の機会にも注目します。
以下のように記載しておくとよいでしょう。
- 従業員に関する施策
例:「2021年、フレックスタイム制度とリモートワーク制度を全社導入。社員満足度調査で90%超の高評価を獲得」
- 人材育成の取り組み
例:「2019年、社内大学制度を開始。年間100時間の学習時間を全社員に保証」
- ダイバーシティの推進
例:「2020年、女性管理職比率30%達成。2022年には外国籍社員比率が15%に上昇」
- 福利厚生の充実
例:「2018年、完全週休2日制導入。2021年には有給休暇取得率100%を達成」
読み手の関心に合わせた沿革を作成することで、より効果的なアピールができます。
ただし、事実に基づいた正確な情報を提供することが最も重要です。虚偽や誇張はやめましょう。
会社沿革の具体例と記載の狙い
ここでは、創業30年ほどのメーカー「株式会社信用製作所」の沿革を例に、効果的な書き方をお伝えします。
沿革を作成する時の参考にしてください。
沿革の例:株式会社信用製作所
1994年4月創業者の信用高夫が「高品質な日本製品で世界に貢献する」という理念のもと、株式会社信用製作所を設立。資本金500万円。
1998年7月独自開発の高効率製造技術「信頼の技」の特許を取得
2000年10月大手自動車メーカーB社との取引開始、売上高10億円を達成
2003年2月国際品質管理規格の認証取得、品質管理体制を強化
2005年6月「信頼の技」を用いた部品が累計生産1000万個を突破
2008年4月海外展開を開始、中国に現地法人を設立
2010年9月経済産業省「世界に誇る中小企業100選」に選定
2013年1月従業員数500名突破、障がい者雇用率7%を達成
2015年4月東日本大震災の経験を活かし、事業継続計画を策定・実施
2018年10月創業者から二代目へ経営陣を刷新、新たな成長戦略を策定
2020年6月感染症対策を契機に、工場の自動化を推進。生産効率30%向上
2024年目標:環境に優しい製品の開発・販売強化で、売上高100億円達成を目指す
この沿革の記載の狙い
- 創業理念を明確に示し、会社の存在意義を伝えました
- 技術開発や特許取得、大手企業との取引など、具体的な成果を示しています
- 数字を効果的に使用し、成長の軌跡を可視化しました
- 国際規格の認証取得や経産省の選定など、第三者からの評価も記載しています
- 社会変化(震災、感染症)への対応力も示しています
- 障がい者雇用など、社会貢献活動にも触れています
- 最後に将来目標を記載し、成長志向と環境への配慮をアピールしています
みんなが知りたい!会社沿革Q&A
「信頼感をアップさせる会社沿革の作成」でよくある質問と回答をお伝えします。
Q1:創業間もない会社は、沿革をどう書けばいいですか?
A1:創業者の経歴や創業に至った経緯、理念などを詳しく伝え、短期間での成果や今後の計画を強調するとよいでしょう。
Q2:マイナスな出来事は記載すべきですか?
A2:重大な出来事の場合、記載しないと信頼性を損なう可能性があります。記載する場合は、その後の対応や改善策もセットで書くことが大切です。
Q3:会社沿革はどのくらいの頻度で更新すべきですか?
A3:基本的には年1回の見直しをおすすめします。ただし、重要な出来事(大型案件の獲得、新製品発表、組織変更など)があった場合は、その都度更新するとよいでしょう。
定期的な更新で、会社の成長を示すことができます。さらに、つねに最新の情報を提供する姿勢が好印象になるでしょう。
Q4:会社沿革に記載する項目には、優先順位はありますか?
A4:はい。効果的な沿革は、企業の成長と信頼性を適切に伝えるものです。
以下に、一般的な優先順位を示します。自社の特徴や業界の特性に合わせて記載することが大事ですので、最適な内容に調整することをお忘れなく。
信頼される沿革の一般的な優先順位
- 創業年と設立年:会社の歴史の始まりです。とても重要な情報になります
- 重要な経営陣の変更:社長や役員の就任などは、企業の方向性を示す重要な情報です
- 事業拡大や新拠点の開設:国内外での事業展開や支社設立は、成長の証明になります
- 主要な業務や事業の開始・変更:新製品・サービスの開発、事業転換、M&Aなどの大きな変化からは、ビジネスの進展を伝えることができます
- 業績の節目と受賞歴:売上高の大幅な増加や業界での表彰は、企業の成功を数字で示す良い指標です
- ISO取得や主要な認証:品質管理や環境対策に関する認証からは、企業の信用力と責任感を伝えることができます
- 重要顧客や取引先との関係強化:主要取引先の獲得や長期の協力体制があることからは、ビジネスの安定性を伝えることができます
- 社会貢献活動やCSR:企業の社会的責任や文化を反映する活動も、必要に応じて記載するとよいでしょう
これらの項目を時系列で整理し、各項目が企業の成長ストーリーを語るように構成することが大切です。
ただし、すべての項目を網羅する必要はありません。
自社の強みや特徴を最も効果的に伝えられる項目を選び、優先順位をつけて記載しておくとよいでしょう。
【調査員の実体験】会社の魂を映す!沿革に込める経営者の想い
経営者の能力や人柄は信用調査における重要な評価ポイントです。
私が調査員だった頃、ある製造業の会社の沿革に強く印象を受けました。
その沿革には、単なる事実だけでなく、経営者の想いや哲学が織り込まれていたのです。
「1990年、創業者の信用良太が『匠の技で日本のものづくりを世界へ』という理念を掲げて起業。2008年の世界金融危機時には『技術は人が育てる』と考え、従業員の雇用を守り抜いた。この経験から技能伝承に力を入れ、2020年には『ものづくり日本大賞』を受賞。」
(※実際の沿革はもっと詳しく書かれていましたが、ここでは会社が特定されないよう、内容を一部変更しています)
ポイントは、事実だけでなく、創業者の想いや会社の姿勢が伝わるように書かれていたことです。
このように経営者の人間性や価値観が表現された沿革からは、会社の文化や雰囲気が生き生きと伝わってきます。
数字だけでははかれない会社の魅力に触れ、私はその会社に非常に好印象を持ちました。
経営者の想いを込めた沿革が、会社の信用力を大きく高める力を持つことを実感した出来事です。
みなさまも、自社の沿革に一工夫加えてみてはいかがでしょうか?
きっと、読み手の心に響く素晴らしい沿革になるはずです。
会社沿革で企業価値を120%伝える
効果的な会社沿革は、単なる事実の羅列ではなく、会社の成長ストーリーを語るものです。
本記事で紹介した7つのポイントを押さえ、読み手を意識して伝えることで、あなたの会社の価値を最大限に伝えることができるでしょう。
さらに、会社沿革は、あなたの会社の「顔」となる重要な情報です。
こまめに見直し、更新することで、常に最新かつ魅力的な会社像を発信し続けてください。
それが、新たな取引機会や資金獲得につながるはずです。
皆さまの会社が沿革で信頼感を高め、ますます事業を発展させていかれることを心より願っています。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。